Documentary

他人が美しさを追求することを“許容する世の中”にしたい
美容医療の先にある、自分にフォーカスする生き方

2022.01.26
川井 優恵乃
取材・文:岡本のぞみ(verb)
撮影:三橋優美子
川井 優恵乃 株式会社Meily 代表取締役 
1995年、神奈川県生まれ。大学1年生の頃にはじめて美容医療の施術を受ける。自身の経験から美容医療口コミ・予約アプリ「Meily」を開発・起業し、アプリやウェブで美容医療に関する施術体験のクチコミやクリニックの紹介をしている。
大学時代に、美容医療のクチコミ予約アプリ「Meily(メイリー)」を立ち上げた川井優恵乃さん。施術を受けた自身の経験をもとに、美容医療に関する“本当に必要とされる情報”とは何かを考えながら、サービスを運営しているそう。彼女自身が投じた施術代は430万円。金額は、あくまでも結果に過ぎないと言いますが、彼女にとって、外見を変えるということはどういうことか、美容医療を通して起きた変化を聞いた。

美容医療の経験をもとにMeilyを起業

今から4年前の2017年、美容医療のクチコミ予約アプリ「Meily(メイリー)」を立ち上げた川井優恵乃さん。当時、クリニック選びや術後の不安に対する情報不足を感じていたことがきっかけだという。

美容医療の経験をもとにMeilyを起業

「私が施術を受けはじめたのは、大学1年生の頃。その頃は、施術を受けた本人の意見を知る機会はほとんどありませんでした。だから、どのクリニックや施術が自分に合うか分からなかったり、術後についても情報不足の状態でした。私は何度かに分けて施術を受けましたが、大学2年、3年になるとTwitterなどのSNSや韓国で施術を受けてレポートする人も増えていきました。ですが、SNSのタイムラインはどんどん投稿が流れてしまいますし、インターネット検索にも引っかかりません。常に追っていないと情報が見つからないのはストレスなので、SNSで発信している人に声をかけて、自分で美容医療の口コミを投稿するホームページを立ち上げました」

美容医療の口コミサイトは求められていたサービスだったため、反響も大きかった。そこで、より良いサービスにしようと起業を決意する。

「ホームページだと使い勝手が悪いと思っていたので、アプリを開発したいと思いました。ただ、私はエンジニアでも何でもないので、マッチングアプリでエンジニアを探したんです。同時期に投資家の方と知り合った縁も重なって、会社を立ち上げました。それが大学4年の頃ですね」

Meilyのサービス画面(アプリ)。
Meilyのサービス画面(アプリ)。

目的をかなえるため即行動に移した。それだけ思いが強かったということだろう。「Meily」には彼女の経験やアイデアが詰まっている。

「美容医療を受けるとなると、これまではクリニック名を知らないと、自分の受けたい施術を探せない状況でした。『Meily』では、二重埋没など症例や悩みからドクターやクリニックが探せるようになっています。そのほうがサービスとして自分にフィットしたものに出合えますよね。また、初めて美容医療を受ける人のための編集部オリジナル記事もあるので、役立つ美容情報を読むこともできるんです」

美容医療の施術を受けて、はじめて“無意識の妥協”に気がついた

美容医療の施術を受けて、はじめて“無意識の妥協”に気がついた

大学生の頃に施術を受け、起業家になった川井さん。美容医療を通して得られた変化とは、どのようなものだったのだろうか?

「高校生の頃から顔にコンプレックスがあって、大学生になってお金を貯めたら施術を受けようと思っていました。施術前は、うまくいかないことがあったときに『かわいくないから』と顔のせいにしていましたが、それがなくなって全体に前向きになれたと思います。きれいになると、おしゃれなファッションやメイクに挑戦しようと思えるんです。それまで、“無意識に妥協していた”ことに気がつきました。美容医療は、外からの目線もそうですが、自分の目線が上がって自己肯定感がアップします。その結果、周りからも明るくなったよね、と言われるんだと思います」

美容医療によって前向きになった彼女は起業家としてステップアップする。起業を果たすきっかけの一つになったのが、就職活動での成功体験だという。

「大学3年生の頃に就職活動で、夏のインターンを経験しました。そこで良い成績を収められたことも、自分を変えるきっかけの一つになったと思います。私の場合、顔のことを気にしていた時間が長かったので、その悩みが解消されると、じゃあ、次は将来のことに目を向けてみようとなったんです。苦手だったことにトライしたり、人前に出ることに臆さなくなった結果、“自分にフォーカス”できた。それが起業につながったんだと思います」

施術を受けて、もう一つ大事なことに気がついたという。

美容医療の施術を受けて、はじめて“無意識の妥協”に気がついた

「美容医療は、よくも悪くも一つのきっかけにしかならないということです。だから、何のために施術を受けるのか、“目的を持つ”ことが大事。美容医療で外見だけ変わっても意味がなくて、やりたいことをセットにしておくといいと思います。何かにトライしたいでもいいですし、将来にわたって何をしたいか、軸をもつと本当の意味で変わっていける。結果として、私は事業に集中するために美容医療を受けたのだと思います」

美容医療を通して、本当の意味で自分にフォーカスできるようになると、もともとあった強みに気づくこともできるのだろう。

美容医療が当たり前に存在する社会に

美容医療に関して、情報の可視化や施術料金の低価格化が進み、以前に比べると一般に浸透したことは周知のことだろう。しかし、国内外においてさまざまな意見があることも事実だ。

「美容医療大国と言われる韓国の人口は、日本の半分程度しかいません。にも関わらず、人口あたりの施術件数の割合は、韓国の方が高いんです。その理由は、美容医療を取り巻く環境にあるでしょう。まず、韓国はクリニックが多く、医師に対する信頼も厚い。そもそも、韓国はお金を払って美容医療を受けることに対して積極的なので、そうしたクリニックや医師に対する意識の違いは大きいですよね」

施術を受けるクリニックや医師に対する考え方は、美容医療を「積極的に受けたい」と思う意識をつくりあげる人がいるかどうかも大きいという。

美容医療が当たり前に存在する社会に

「韓国では、美容医療に加えて、美容皮膚科も浸透していて、会社帰りに寄って帰るのは珍しいことではありません。レーザーなどのマシンでメンテナンスするのは、美容院と同じくらい気軽です。そうした行動の大きなきっかけになっているのが、女優やインフルエンサーの存在です。中国にはKOL(キーオピニオンリーダー)という影響力のある人たちがいて、『女性は美に投資してこそ価値がある』ことを公言し、堂々とブランド品も持つし、美容医療も受けています。韓国にしても、人気の女優やモデルが施術を受けていることをサラッと公表しています。日本の場合は公表しない傾向がありますので、みんな『隠さなきゃいけない』になってしまいますよね。そうした背景が一般の女性に大きく影響していると思います」

KOLの存在以外にも、日本独自の美容に対する感性が根底にあるともいう。

「日本人には、“ありのままが大切”という考え方が古くからあると思います。両親からもらった体だから、そのままを受け入れるべき、というものです。それと似た考え方で、ナチュラルが美しいというのもあると思います。もちろん、それもいいと思いますが、“他人が美しさを追求することを許容する世の中”のほうがいい。どちらも共存できる社会であってほしいと思います」

“誰もが美を追求してもいいよね”、という文化の形成を目指して

リクルートで、美容医療の施設を選ぶ際に不安なことを調査したところ、費用や安全性・リスクに対するものが挙げられた。川井さんは、こうした疑問を「Meily」で解消して、女性を次のステップに導きたいという。

“誰もが美を追求してもいいよね”、という文化の形成を目指して

「特に美容医療に関しては、イメージ的にガッツリ変わると思われていることが多いように思いますが、意外とナチュラルな変化です。私も施術を受けたあとは『痩せた?』と言われて気づかれないことが多かったんです。実際、今は数年前にくらべて、ちょっとやってみたい、ナチュラルに変わりたい、という人が増えて、医学的にも叶えられる状況にあります。そうした人におすすめなのが、まずは肌にフォーカスすることです。肌をなめらかにしたり、ほくろをなくすだけでも、気持ちが変わって成功体験につながります。モチベーションを変える手段でもあるので、まずは月に一度、肌のメンテナンスに通う習慣をつけてから、美の階層をあげるのがいいと思います」

自身が美容医療に関するビジネスの経営者となったことで、日本の美容医療に対しての価値観をアップデートしたいと思うようになったそう。

「私自身、美容医療はきっかけの一つに過ぎませんでした。美容医療を受けたからって人生が変わるわけじゃありません。あくまで障害となる要素を取り除いた後に、自分が頑張れるかどうか。ですから、女性には美の理想をもってほしいと思っています。みんなきれいになりたいとは思っていますが、中国や韓国ほど自分の理想について考えていません。『Meily』を利用している人は、美容医療に興味のある人がほとんど。そうではなく、興味はあるけどどうしたらいいかわからないという日本人はすごく多い。なので、次はそうした方に向けて、どう変われば理想の自分になれるかを探すアプリを設計したいと思います。今は、自分から情報を発信したり、若くして起業してもいいよねと、社会的にさまざまなことに対する許容度が高まっている傾向にあります。特に若い世代では選択肢も広がり、自分のやりたいことをしやすい環境があります。美容医療も同じで、これまでの固定観念にとらわれず、“誰もが美を追求してもいいよね”、という文化を形成していきたいですね」

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