車椅子ギャル、さしみちゃん。
美容医療は「変えなきゃ」から「自分ウケの追求」のために

2023.11.13
さしみちゃん
取材・文:岡本のぞみ(verb)
撮影:有泉伸一郎
さしみちゃん 経験施術は、ボトックス注射、ヒアルロン酸注射、糸リフト、輪郭脂肪吸引、鼻ミスコ、鼻翼縮小、耳介軟骨移植、鼻中隔延長、歯列矯正。
グラフィックデザイナー、DJ/1995年、埼玉県生まれ。日本大学芸術学部卒業後、都内の企業にグラフィックデザイナーとして勤務。本業のかたわら「車椅子ギャルさしみちゃん」としてYouTubeの発信やDJとして活動を始め、メディアにも出演。車椅子ギャルの日常を発信しながら、誰もが生きやすい社会を啓蒙している。
YouTubeやTikTokでメイクや旅行などの車椅子の日常を発信しているさしみちゃん。1年前からは、自分が体験した美容医療についてもその都度、公開している。2023年2月、駅構内のエレベーターの扉を目の前で閉められてしまった投稿がバズり、メディアでも思いを語っている。美容医療を体験したこと、メディアに登場したことで変わってきた自身と未来への思いについて、さしみちゃんに聞いた。

ありのままの思いを語るようになった理由

「NGはないので、何でも聞いてください」――そう笑顔で告げられて始まった、さしみちゃんのインタビュー。「車椅子ギャル」を名乗って、派手な見た目で発言する様子はメディアやSNSでは強めなキャラクター。このスタートは、予想外だった。

ONEドキュメンタリー取材さしみちゃん

「メディアで切り取って紹介されると、怖いとか炎上系とか思われて、実際の自分との間に変な乖離が生まれちゃうんです。でもお会いした人にはそうじゃないって言っていただけることのほうが多いです」

実際に会ったさしみちゃんの印象は柔らかい。YouTubeのコンテンツを見ても、配慮を交えながら順序立てて話しているのがわかる。インフルエンサーとして彼女を知った人には意外かもしれないが、普段のさしみちゃんはワンちゃんとともに一人暮らしをしながら、都内の企業でグラフィックデザイナーとして働いている。

さしみちゃんが車椅子を利用しているのは、背骨が変形する先天性の障害があるから。点状石灰化骨異形成症という日本で一人しか確認されていない障害で、歩行できなくはないが、転ぶのを避けるために日常の移動には車椅子が欠かせない。しかし、それ以外できないことはない。

「車椅子なだけで中身は普通の20代だね、と周りから言ってもらえることが多いですね。YouTubeを始めたのも、世間に障害者のありのままを伝えたかったから。私が楽しんでることも、大変なことも、ありのままに。だから最初は何かを言うより、言わないように。あえてメッセージ性を持たないコンテンツづくりを大事にしてきました」

ONEドキュメンタリー取材さしみちゃん

しかし、ある日X(Twitter)に投稿した動画がバズった。さしみちゃんが電車を利用した後、ホームにあるエレベーターに乗ろうとしたところ、目の前で扉が閉められてしまうというショックな内容だった。さしみちゃんにとっては、日常の不便さについて何気なくアップしただけのつもりだったが、大きな反響があった。

「多くは好意的なコメントでしたが、『障害者なんだから早く家を出ろ』『偉そうな人には譲りたくない』という声もありました。本来、エレベーターは車椅子が優先です。でも、私にとっては、エレベーターはいつも長蛇の列を待つものだし、電車に乗るには駅員さんに声をかけてから。電車に乗るのには30〜40分かかる。私は普通の人と同じように働いているので、交通の問題点に直面する機会が多かったんです。なので、当たり前のことを当たり前におかしいと声をあげました」

これをきっかけにYouTubeでも、自分の思いを丁寧に語るようになった。同時に、車椅子利用者などエレベーターしか手段のない人の優先利用を伝えるシンボルマーク拡大のオンライン署名活動をスタートしている。

美容医療を経て「顔を変えなきゃ」から「別人にはなりたくない」に

「やっぱりちょっと世の中顔だと思うんだよね」――ハッとするようなタイトルで、YouTubeでは自身の美容医療体験もコンテンツとして発信している。

ONEドキュメンタリー取材さしみちゃん

「私は親や、周囲から『かわいくない』と言われて育ったので、自分の容姿にコンプレックスがありました。顔面に自信があったわけでもないので、美容医療をしないという選択肢がなくて。必然的に。大学1年の頃からバイトで貯めたお金でヒアルロン酸やボトックス系の注入などをやっていました」

発信して表に出るようになったことで、世間の反応も気になった。

「同じ車椅子でもきれいだなと思う子は助けてあげたいけど、こいつは助けてあげたくないというふうにジャッジされていると思いました。メディアでもきれいな方が映えるし。もっとかわいかったら発信する声を聞いてもらえるのかな、とかそんなことを考えていたのかもしれません。

最近、全身麻酔を使った鼻の施術をしました。幼い頃にも全身麻酔を使った大きな手術を経験したことがあって大変だったので、自分にとっては気軽な気持ちで受けられる施術じゃなかったですね。でも、美容医療は人生をうまくいかせるためにやるべき手段だったような気がします」

大きな決意で挑んだ美容医療。施術後はどんな気持ちの変化があったのだろうか?

ONEドキュメンタリー取材さしみちゃん

「やっぱり前よりは自信を持って人と話せるようになったかな。顔をSNSに出すときも加工の手間が減ったので(笑)」

そう照れ笑いしながら答えたさしみちゃん。もう少し突っ込んで聞いてみると、実はかなり気持ちに変化があったようだ。

「以前は周囲にかわいくないと言われて、『変えなきゃ』と思ってましたけど、今は割とポジティブになってきているところです。微修正のフェーズに入ってからは、顔をガラッと変えたいというのはないです。美容医療は魔法じゃないし、自分の顔のつくり自体は好きなので、自分の中のより良い自分、もっと好きな自分にアップデートして磨きをかけていくイメージです。別人になりたいわけじゃない。今は自分ウケを追求してるから、楽しい。美容医療をやる前と今では、そのグラデーションがあるかもしれないですね」

改めて、美容医療とはどんな経験だったかを聞くと、「よりビューティーになる手段ですかね? 自分が自分らしくいられるために」とポジティブな答えが返ってきた。

ONEドキュメンタリー取材さしみちゃん

『さしみちゃんが言ってたな』と気づいてもらえるように。
目指すは“みんなの一番身近な車椅子の人”

さしみちゃんの小学生時代について聞いてみると、当時から美意識は高め。メイクをして怒られたり、土日にマニキュアを塗って月曜日に落として学校に行ったりすることもあったそう。そんな経験があったからだろう。美容医療を経験して、美容をサポートしたいという思いが出てきたという。

ONEドキュメンタリー取材さしみちゃん

「障害を持っていると、クリニックどころかネイルサロンや美容室を探すのも大変です。たとえば脱毛サロンは身体を転がしたりして施術を受けるので、身体を自力で動かせる健常者じゃないとハードルが高かったりします。でも、障害はあるけど美容医療を受けたいとか、子どもにネイルをやってあげられるところを知りたいとか、DMで相談がくるくらいニーズはあるんです。今考えているのは、車椅子でも行けるサロンを探して発信すること。クリニックやサロンと障害者の橋渡しになれたらと思っています」

また、YouTubeの発信を続け、さまざまな反応を受けたり、メディアで著名人と対談したりしたことで、さしみちゃんは自分らしい発信とはなにかを考えるようになった。

ONEドキュメンタリー取材さしみちゃん

「思ったのは、世間は困っている障害者像を求めていて、かわいそうであるべきという考え方があること。私はそこを覆したいと思っています。何かを言ってくる人は、自分も不遇を受けてつらい思いをしているのかもしれません。でも、私が自分の発言や行動に自信を持って、楽しく生きていることを発信することで、それが希望になってくれる人もいる。そのためには、分かってくれと権利だけを主張するのではなくて、エンタメを交えて発信するとか、そういうことをやっていきたいですね」

先日、エレベーターの優先利用を伝えるシンボルマーク拡大のオンライン署名は、1万人を超えたという報告があった。発信は多くの人に届いているのだ。それに満足せず、人のためになりたいという思いも強くなっている。

「私も少し前まで黙ってエレベーターに並んでいたし、正直、不便なことには慣れてるんです。でも、『子どもが車椅子の未就学児なんですけど、こんな状況で社会に出したくない』という親御さんからの声もいただくようになって。今顔出ししてる大人の自分が変えていかなきゃいけないという使命感は勝手に芽生えています。背負いすぎかな? でも、そのために、みんなの一番身近な車椅子の人になりたい。『この段差は無理ってさしみちゃんが言ってたな』とか、気づきがどれくらいあるかで変わってくると思うんです」

ONEドキュメンタリー取材さしみちゃん

さしみちゃんは発信1つとっても、さまざまな方法を試行錯誤している。しかし、活動はそれだけにとどまらない。さしみちゃんとは一体どんな存在なのだろう?

「ちょっと恥ずかしいですけど、自分のことは表現者だと思っています。YouTubeの発信だけではなく、絵を描いたり、映画の脚本を書いたりクリエイティブな活動も水面下でやっていて、言ってみれば、さしみちゃんはマルチメディアの出力先。私はそれをプロデュースしてるイメージです。外見も中身も、誰かから見て輝いてるじゃなくて、自分の好きな自分でいたい。それができたら、結果自分らしく輝くんじゃないかな?」

さしみちゃんはこれからも自分の目指すあらゆる側面に向き合い、傷つきながらも磨かれていくのだろう。多面体で光るダイヤモンドのように。

ONEドキュメンタリー取材さしみちゃん
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