「男とか、女とか、そんなことはどうでもいい」
脱毛したら、ジャミングがなくなった

撮影:外舘 翔太
趣味はメイク。普段は社会人として働き、2023年の4月からメイクの夜間専門学校へ入学。化粧品検定1級、臨床化粧アドバイザー、パーソナルカラリスト3級の資格を生かし、ビューティーアドバイザーとしても活動。そのほか、CDDJや被写体モデルなども行う。
魔法少女に憧れた幼少期
今思えば、ヤマトさんが「自分はほかの男の子と少し違うかも」と認識したのは、まだ幼い頃。周りの男の子が、いわゆる“男の子向け”のアニメやゲームで盛り上がるなか、ヤマトさんは“おジャ魔女どれみ”が大好きだった。

「特に、妹尾あいこちゃんが好きでした。大阪育ちでスポーツ万能、姉御肌の元気っ子。女の子らしいわけでも、男の子らしいわけでもない、あいちゃんらしい振る舞いが、憧れでした。でも、私は男の子のコミュニティに属していましたから、なんとなくそういう気持ちは抑え込んでいました。あの頃から、憧れはずっと『かっこいい女性』です」
難病を抱えつつ、社会人として奮闘
そんな幼少期から年齢を重ねていった大学時代。そろそろ就活やインターンが始まるというタイミングで、“クローン病”を発症。クローン病は口から肛門にかけて複数の炎症が起こる慢性の炎症性疾患の一つで、主な症状として腹痛や下痢、体重減少、発熱などが挙げられる。難病指定されており、完治する病気ではない。なんとか一般企業に就職をしたものの、ヤマトさんは「身も心もボロボロだった」と当時を振り返った。

「社会人一年目は本当にしんどくて、『100万円貯めたら辞めよう』と決意して節制し、100万めたんです。でも、知り合いから『100万貯めたって、仕事を辞めたら1年も経たずにすぐなくなるよ』という話を聞いて、『意味ないじゃん!』となって。じゃあ、このお金を何に使おうと考たとき、初めて『自分に投資しよう』と思ったんです。それで、コンプレックスだったムダ毛をなくために医療脱毛に通い始めました」
自分にとって「ヒゲがあるメリットは、ひとつもない」
金銭的に余裕ができたことで精神的な余裕にも繋がり、自己投資をはじめたヤマトさん。ヤマトさんのなりたい像である“かっこいい女性”には、ムダ毛がない。だから、「真っ先になくしたい」と考えた。

「元々、ヒゲがコンプレックスだったんです。剃っても青くなるし、肌は痛むし、自分にとってヒゲがあるメリットがひとつもなかった。自分のなりたい像が、美しくて、かっこよくて、綺麗なのに対して、自分の中でヒゲはそれに当てはまらなかった。だから真っ先になくそうと思いました」
顔は医療脱毛、手足はエステの光脱毛を受けたというヤマトさん。剃毛によるダメージがなくなり、肌の状態は良好だという。しかし、なぜ部位で脱毛の種類を分けたのだろうか?

「医療脱毛のほうが効果があるということは分かっていたのですが、値段がネックで。だから、太い毛であるヒゲだけ医療でしっかりやって、ほかはエステ脱毛で薄くしていく、という選択をしました。あと、医療脱毛は医師のもとで施術してもらえますから、万が一何かあったときに対処してもらえるという安心感でも選びました。特に顔は大事な部分ですからね」
もっと、自分のなりたい像に近づきたいから、メイクの資格もとった
脱毛を始めたヤマトさんの自分磨きは、ここでは終わらない。メイクやスキンケアを学び、男性向け・女性向けなどを気にせず洋服を選びはじめた。そのきっかけは、ヤマトさんが長年憧れていた、若い女性を中心に人気のアパレルブランド“rurumu:(ルルムウ)”のポップアップだった。

rurumu:の「patchwork oversized shirt」
「自分が行くなんておこがましいと思いつつも、出向いたポップアップ。女の子向けのブランドなので、そもそもサイズ的に難しいなか、ジャケットが1着だけ着れたんです。そのとき、『この洋服が似合うような人になりたい』と決意しました。脱毛だけじゃなくて、メイクやスキンケアもちゃんとしたいと考えるようになり、メイクの勉強をして資格をとって、メイクも大好きになりました」
美容医療は魔法ではない、でも、少しだけ助けてくれる
数年をかけ、脱毛を終えたヤマトさん。ムダ毛がなくなったことにより、さらなる心境の変化はあったのだろうか? ヤマトさんに問うと、「自己満足の世界の話になりますが」と前置きの上、教えてくれた。
「ジャミング(妨害するもの)がなくなりました。これで、なりたい像を目指せる環境、ベースが整ったなと。これからは、メイクも洋服も、『自分にはムダ毛があるから』 と、諦めたり妥協したりの言い訳ができなくなる。もっと自分を愛すために、なりたい像に近づくために、本当にやれてよかったですね」

性別なんて、どうでもいい。
ただ自分がなりたい自分を目指すだけ
現在も仕事を続けながら、2023年の4月からメイクの夜間学校へ通っているというヤマトさん。新たなことへ挑戦することに尻込みはしない。難病だから、仕事が忙しいから、男だから女だから。「そんなことは、どうでもいいんです」とヤマトさんは笑った。
「日によって、今日は可愛いメイクをしたいなという日もあれば、カッコいい服装をしたいなという日もある。男だとか女だとかでくくって考えるのではなく、自分の居場所は自分で探したり、つくったりするしかないと思うんです。私は、女の子になりたいわけではないけど、皆の思う男の子でもないと思う。でも、それでいいじゃないですか。だってそれが、ヤマト・モモなんですから」
