アーチ眉が、再びピアニストとして生きる道へ導いてくれた

2024.04.30
市川すずか
取材・文:岡本 のぞみ(verb)
撮影:森山 越
市川すずか ピアニスト/1991年、大阪府生まれ。スウェーデン人の父と日本人の母の間に生まれ、小学生まで日本で育ち、12歳からスウェーデンに渡る。ノルウェー国立音楽大学を卒業後、帰国。現在はホテルのラウンジでの演奏を中心に、インスタグラムの発信やイベントでの演奏など、ピアニストとして多彩な活動を行う。
経験施術は、マイクロブレーディング(眉アートメイク)、ハイフ
ときにロマンチックに、ときにゴージャスに。楽曲に合わせて、イメージを変幻自在に変えながら演奏するピアニストの市川すずかさん。いまの輝く姿からは想像もつかないが、20代半ばは「闇の時代」だったと話し、自分を表現する余裕のない毎日を送っていたそう。そんな日々を変えてピアニストとしてスタートを切ったきっかけは、眉のアートメイクだった。

「ありのままでいいんだよ」
その言葉に導かれ進んだピアニストへの道

ピアノを始めたのはわずか5歳。母もピアニストという家庭に生まれ育った市川さんにとって、ピアノはいつもそばにあった。12歳で家族とともに父の祖国であるスウェーデンに渡った後もピアノは続けていたが、思春期の市川さんはさまざまな将来を思い描いていた。

ONEドキュメンタリー取材市川すずかさん

「スウェーデン人の父は、“ありのままでいいんだよ”といつも声をかけて、私を伸び伸びと育ててくれました。自分に自信を持たせてくれるのが、スウェーデンらしい子育てです。小さい頃は水泳選手になりたいと思ったこともあれば、女優になりたいと思ったこともありました。でも、ピアノの先生に『才能があるんだから、ピアノ1本でやってみたら?』と言葉をもらったのがきっかけで、音楽大学を受験することにしました」

それ以来、受験勉強に熱心に取り組み、見事ノルウェー国立音楽大学のクラシックピアノ科に合格する。ノルウェー国立音楽大学は、名門ひしめくヨーロッパの音楽大学でもトップクラス。グラミー賞にノミネートされたピアニストの教授が在籍するなど、人気も高い。入学後はピアニストになるために、演奏以外のことも教わる。

「大学ではピアノの横に鏡が置いてありました。ピアニストは常に見られているので、姿勢を意識しながら弾いていました。ピアニストは、横顔が命でもあります。髪の毛で顔が隠れないように、耳をオープンにするヘアスタイルにするなど、見た目にもかなり気をつかっていました」

ONEドキュメンタリー取材市川すずか

在学中はイタリアへも音楽留学するほどピアノに打ち込み、大学を卒業したのちに日本に帰国した市川さん。しかし、すぐにピアニストになったわけではない。

「ピアニストになるには才能はもちろんですが、コネクションも必要です。私は日本を離れていた時期が長かったので、すぐにピアニストとして活動するだけのネットワークがなかったんです。当時の私はすぐに働けて安定した仕事を求めて、インターナショナルスクールの先生として働き始めました」

眉に自信がついたことが、夢への行動力につながった

市川さんは幼稚園児や小学生を教育するクラス担任を受け持ったため、20代半ばの3年間はピアノを弾く時間のない日々を送る。ピアニストを目指していたときのように見た目に対しての意識も薄れ、当時を「自分のことを考える余裕がない、闇の時代だった」と振り返る。しかし、そんな日々に終止符を打つきっかけになったのが意外にもコロナだった。

ONEドキュメンタリー取材市川すずか

「それまで海外旅行にお金を使っていたのが、海外に出かけることができなくなりました。浮いたお金でやってみたのが、マイクロブレーディング(眉毛を1本1本描いて、自然な仕上がりにする眉のアートメイク)です。もともと、眉にコンプレックスがあったし、スウェーデンの人気ブロガー・Kenzas(ケンザス)がインスタグラムで紹介してきれいな眉になっていたので、真似しようという軽い気持ちでやってみました」

市川さんは日本の美容医療クリニックで施術し、アーチ形の眉になることができた。この眉の施術が市川さんにとって大きな意味をもたらすことになる。

「もともとの私の眉は、いろんなところから毛が生えていて、嫌になるくらい太かったんです。中学時代にスウェーデンの友達からも『太いね』と指摘されて、親切に眉を抜いてもらったこともありました。だから眉は20代になってもコンプレックス。人からどう思われているかが気になる性格なので、普通に話していても、『眉毛の形が変だと思われていたらどうしよう』といつも心配していました。それが解消されてきれいなアーチ眉になったので、気持ちがポジティブになりました。単純ですよね(笑)」

このポジティブな気持ちの変化は行動にも表れる。

ONEドキュメンタリー取材市川すずか

「見た目に意識が向くようになって、8キロのダイエットに成功しました。それで自信がついて、ハッと目が覚めたんです。私は何をやってるんだろう、今までやってきたことが生かせてないと気づいて、もう一度ピアノをやってみようと思いました。久しぶりにショパンを弾いたら楽しくてその様子をインスタグラムで発信すると、応援していただける人も増えていきました。現在の所属事務所の目にも止まり、ピアニストとして本格的に活動することになりました」

市川さんは勤務していたインターナショナルスクールにも音楽の道で生きていくことを伝え、現在は週に1度の音楽の授業だけ受け持っている。

日本×スウェーデンのスタイルをピアノにのせて表現していく

現在の市川さんはホテルラウンジでのピアノ演奏を中心に活動中。インスタグラムのフォロワーは2.4万人に増え、世界中に市川さんらしい演奏活動を発信している。

「ピアノで弾く曲は季節ごとに変えています。たとえば春の桜シーズンには、クラシックだけでなく桜に関するJ-POPをピアノアレンジして弾くこもあります。新しい曲をどんどん取り入れていくことが仕事への自信にもつながっています。最近はSpotifyでも私がピアノアレンジしたアルバムを発表しはじめました。インスタグラムでは楽曲に合わせたドレスや洋服を着て、ピアノを弾く姿全体を投稿したり、ときにはピアニストにちなんだユーモアのある投稿もアップしています」

ホテルのラウンジでもインスタグラムでも、市川さんのピアノの世界は、その場の空気をパッと変え、人を魅了する力がある。見た目の美しさやスタイルを維持するために気をつけていることはたくさんあるという。

「ピアニストはパフォーマーとして、見た目でお客様とコミュニケーションを取ることも大切です。演奏だけでなく、“あのドレス素敵だな”と思っていただいたのがきっかけで音楽を聴いてくれることもありますから。もちろん、姿勢や横顔への意識は学生時代にも増して強く持つようになっています。毎朝ヨガを取り入れて姿勢を美しく保つのはもちろん、ヘアスタイルやメイクにもこだわりがあります。美容医療はほうれい線が気になって、ハイフを受けてみました。でも、30代になって毎日が充実していて笑うことが増えたので気にならなくなりました。美容についてスウェーデンはナチュラル志向で、日本は肌に関する美意識が高いですよね。私は日本とスウェーデンの両方のメンタリティをもっているので、いいバランスで取り入れていきたいですね」

ONEドキュメンタリー取材市川すずか

眉を変えたことから始まった市川さんのチャレンジは、ピアニストの夢につながっただけで終わらない。やりたいと思うことの幅は広がっているようだ。

「日本に帰国する前はヨーロッパで活動していたので、海外の演奏活動を増やしていきたいと思っています。今年の秋にはハワイのホテルでのリトリートプログラムに出演する予定です。こちらは私とバレリーナがタッグを組んで、参加者はピアノの生演奏でバレエを楽しむものです。こうした新しい活動にもどんどん参加したいと思います。将来的には猫が大好きなので、グランドピアノのある猫カフェをオープンするのが夢です」

やりたいことをどんどん実現していくことが自分らしい人生の見つけ方、市川さんはそう教えてくれた。

ONEドキュメンタリー取材市川すずか
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