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アウトドアが持続可能なレジャーであるために。自然と共生する日本単独野営協会の取り組み

2022.07.25 取材・文:岡本のぞみ(verb) 撮影:有泉伸一郎(SPUTNIK)

ソロキャンパーが立ち上がり、野営地をきれいに

小山仁さんインタビュー01
「日本単独野営協会」代表理事、小山仁さん。

大空の下で自然を楽しむアウトドアがブームになっている。日本オートキャンプ協会の「オートキャンプ白書」では、2019年時点でオートキャンプ参加人口は860万人となっている。2020年はコロナ禍により減少傾向になったが、それまでは7年連続の増加傾向が続いた。ここ数年のアウトドアブームで特徴的なのは、さまざまなスタイルが登場していること。2020ユーキャン新語・流行語大賞では「ソロキャンプ」がトップ10に選出。そのほか、「グランピング」「べランピング」なども登場した。さらに「焚き火」が注目されたり、釣りやアウトドアサウナなどのアクティビティとキャンプの組み合わせも人気だ。その一方で、さまざまなトラブルや問題点もある。

「私は、17〜18年前から河川敷などでソロキャンプをするようになりましたが、だんだんと河川敷が荒れていきました。元々、河川敷は夏になると草が伸びてテントを張れる場所が少なくなるのですが、直火で焚き火をしたまま、ゴミや食べ残しが焼け跡とともに残されていました。この状態が続くとキャンプができなくなると思い、焚き火跡を片付けてゴミを持ち帰っていましたが、翌週に来るとまた増えている。キリがないわけです。一方で、いまでもブラック企業で働く人の心を癒す手段として、ソロキャンプの良さを伝えたいとも思っていました。一人の力ではどうにもならないと考え、2018年に『日本単独野営協会』を設立しました」

ソロキャンプのテント張り

小山さんが一人で立ち上げた日本単独野営協会だが、やがてソロキャンパーの集合体となり、毎週のように各地の野営地で活動している。

「日本単独野営協会の目的は、ソロキャンプの健全な普及です。そのために、河川敷など誰でも利用できる野営地をきれいにすること、そしてソロキャンプという文化を浸透させるための活動をしています。裸一貫で立ち上げましたが、絶対に同じ思いのソロキャンパーはいると考え呼びかけたところ、順調に会員は増え、2022年7月の時点で2万2000人が集まっています。会員は全国に広がり、神奈川、大阪、兵庫、山口には支部もできています」

キャンプ場で起きているトラブルを解決する活動

愛川町の河川敷

日本単独野営協会が野営地をきれいにし、ソロキャンプの普及を目指しているなかで、問題になっていることがある。そのキーワードが次の二つ。

「焚き逃げ」
直火による焚き火を行い、片付けずに放置して帰ること。野営地やキャンプ場を問わず、ほとんどの場所で直火は禁止されており、焚き火台の使用が基本。焚き逃げをすると、景観を損なうほか、車が乗り上げたり、人がつまずいたりするため非常に危険。河川敷にある石を使ってかまどをつくった場合は、その石が鋭利に割れて破片でケガをすることもある。また、炭は土に還らないため、ゴミとしてあり続けることになる。

「教え魔」
ソロキャンプ人口は男性を中心に増えている一方、女性への浸透はまだまだ。それをさまたげている問題のひとつが、教え魔。頼まれてもいないのに、初心者や女性に対して講釈をたれる存在。自分の知識や技術、道具を自慢するタイプと、「危ない」「教えてあげる」という名目のもと女性と話そうとするタイプに分けられる。

焚き逃げや教え魔などの問題を一掃!
日本単独野営協会の活動内容

【清掃キャンプイベント】
定期的に有志が集まり、野営地の清掃活動を行う。草刈りやゴミ拾い、焚き逃げの片付けが主な作業。

野営地の清掃活動の様子

【インターネットでの情報発信】
ホームページやYouTubeで幹部が記事や動画をアップ。そのほかFacebookグループでは、会員によってソロキャンプに関する質疑応答、各キャンプ場や野営地での活動内容が日々投稿されている。

【初心者や女性のソロキャンプ見守り(初心者支援制度)】
初心者や女性でソロキャンプを始める自身がない人を対象に、ソロキャンプを見守る制度。基本的には一人でソロキャンプをやり、困ったことや分からないことがあったらアドバイスや指導を行うもの。ホームページからの申し込みにより、無料で実施。

【スキルアップ講座】
ロープワークやフェザースティックのつくり方など、ソロキャンプに必要なスキルを身につけるための講座を開催。

ロープワークのやり方
フェザースティックの作り方

ほか、イベントに限らず、ゴミ拾いや焚き逃げの後始末などは、見つけ次第会員によって行われている。また、会員がよく利用する愛川町の角田大橋河川敷の野営地では、トイレットペーパーを近くの商店「とくらや」で購入・補充されたり、フェザースティックが「とくらや」で無料提供されている。

大人の癒し、自分らしさを取り戻すソロキャンプ

小山仁さん火おこし01

一般的なキャンプは、自然に親しみながら、家族や仲間との時間を過ごすことを楽しめる。一方、ソロキャンプは一人の時間を過ごすことでさまざまな効果があるという。

「私自身ソロキャンプをやることで、すごく気持ちが落ち着いた経験があります。20代の頃は、馬車馬のように働いていたのですが、ふと休みが取れた日に自宅のある横浜から愛川町までスクーターを走らせ、そこで野宿したときに気持ちがすごくスッとしました。会社にいると、『あれをやらなきゃ、これをやらなきゃ』と考えますが、自然の中にいると、そんなことが取るに足らないことに思える。渦中にある自分がポンと外に出られた気がしたんです。当時の同僚のなかには、うつ病で会社を辞めた仲間や亡くなった仲間がいました。彼らにこういう世界を伝えてあげたかったな、と思ったのが協会をつくったきっかけのひとつです。今でもブラック企業で苦しい思いをして働いている人には、ぜひソロキャンプをおすすめしたいですね」

夜ソロキャンプの様子

働きすぎて心と体が疲れた人だけでなく、大人の女性にもソロキャンプはおすすめだという。

「うちの会員さんでも子育てがひと段落した世代の女性が、ソロキャンプを楽しんでいらっしゃいます。結婚して子育てに追われている間は、子どもや家族のために頑張っていたけど、子どもの手が離れたときに何か始めようと思うタイミングがきます。そんなときにソロキャンプをやってみると、自分一人のためだけに時間が過ごせることに充実感を覚えるようです。それまで家事をやってきた人たちなので、キャンプスキルの飲み込みも早い。はじめは見守り制度を利用しても、何回かすれば自分で野営地やキャンプ場を見つけて楽しんでいるのは、うれしいですね」

最近では、ソロキャンプをする人同士が自然に集まって楽しむ「ソロコラボキャンプ」というスタイルも登場している。

ソロコラボキャンプの様子01
ソロコラボキャンプの様子02

「ソロコラボキャンプは、同じ野営地やキャンプ場で出会ったソロキャンパー同士が夕食や酒を飲み交わしながら、夜の時間を過ごすもの。それぞれが料理や酒を持ち寄って、誰かのタープの下などで行います。日本単独野営協会は、会員同士が同じ場所でキャンプすることも多いので、自然発生的に毎週行われていますね。グループキャンプは、運転や設営、料理など係を決めてやりますが、ソロコラボキャンプはいつ来てもいつ帰ってもいい。自立していながら、気ままにできるのがいいですね。みんなソロで培った技を持っているので、タープのつくり方や料理など、勉強になることもあります」

次世代までもソロキャンプが持続するために

フェザースティックとキャンプ用のアイテム

活動スタートから4年が経ち、2万人を超えるソロキャンパーのつながりを獲得してきた日本単独野営協会。会員の活動がキャンプ地を使う際の環境意識に変化を及ぼしている。

「日本単独野営協会では、“来たときよりも美しく”を愛言葉にしています。イベントでいつも使う野営地の清掃活動や焚き逃げの後始末をするのはもちろん、会員は普段ソロキャンプをやった後でもゴミ拾いや焚き逃げの後始末をして帰るのが当たり前になっています。そのおかげで、当初は会員5万人を超えたくらいから野営地をきれいにする流れができると読んでいましたが、会員が2万人の段階でそれを感じることができました。その理由のひとつは、会員の働きかけがそれぞれの周辺で効果的に浸透していったこと。例えば会員が会社仲間とバーベキューをしたときに、正しくキャンプ場を使ってゴミを持ち帰る姿を見せたことで、その思いや行動が広がったのです」

小山仁さん料理

そのほか、メディアの取材に応えたことでキャンプのルールが浸透。例えば、日本単独野営協会がつくった『焚き逃げ』という用語はテレビやネットで伝わり、やってはいけないこととして広まっている。

今、日本単独野営協会で最も力を入れているのが、女性ソロキャンパーを増やすこと。男性に比べてハードルが高い。

「人口の統計で言うと男性と女性の割合は半々なのに、女性ソロキャンパーの数は少なく、日本単独野営協会の女性比率は7%ほど。肩味が狭くなっています。そこを増やさない限り、会員を10万人まで増やすことはできません。どうしても、フィジカル面でソロは難しいと思ってしまう部分があったり、教え魔に遭いやすかったりします。つまり、性別における不平等がある。そこを埋めるために日本単独野営協会では、初心者支援制度としてソロキャンパーの見守りを行っていますが、男性は3回までとしているところ、女性は何度でも無料で利用してもらえるようにしています。ほかにも些細なことですが、野営地のトイレに常にトイレットペーパーを補充したりしています。女性会員の比率を上げて、男女関係なくキャンプを楽しめるようにするのが目標です」

日本単独野営協会の掲げた“ソロキャンプの健全な普及”のためには、想定外の問題や新たな問題も出てくると予測する。実際に、コロナ禍では自粛警察が登場してソロキャンプが悪者にされたこともあり、活動に支障をきたした。しかし、この活動を続けていくことで必ず問題は解決すると小山さんは話す。

小山仁さん火おこし02

「私たちは活動を継続させることを、“勝つまでじゃんけん“と呼んでいます。じゃんけんは続けていれば必ず勝てるときが来るのと同じように、活動を続けていれば、野営地は必ずきれいになるし、ソロキャンパーの女性比率も上がります。多くの計画は、自分が生きている間に実現させようとするから難しくなる。私は自分が明日死んでもこの活動がいつまでも続くようなしくみを考えています。これからも計画通り、勝つまでこの活動を会員と続けていきます」

アウトドアは、ブームやトレンドを超えて、定着の段階に入りつつある。自然環境をベースにしたレジャーにはサスティナブルな視点が必要不可欠。ソロキャンパーがその牽引役を果たし、グループキャンパーや釣り人、焚き火やバーベキューのデイキャンプユーザーにも同じ思いが共有されていくことを期待したい。

ソロキャンプ焚火の様子

取材協力

日本単独野営協会
代表理事 小山 仁
日本単独野営協会
代表理事 小山 仁
1976年横浜市生まれ。中学時代のキャンプ経験の楽しさから、社会人になってからソロキャンプを始める。2018年に日本単独野営協会を設立。ソロキャンプの健全な普及を目指して、2万2000人の会員を率い、代表理事として活動している。
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