漫画や小説の中に“自分の見た目の正解”を探して。 【第一回】女装家セラピストが描くルッキズム小説『コンプルックス』
この連載では、「ルッキズム」や「美容医療」をテーマにした漫画や小説を紹介します。「見た目」に関しても他人の意見に流されることなく、自分の中での答えを見つけてほしい。そのヒントを見つけるお手伝いができたらいいなと思います。
第一回目は、女装家心理カウンセラー・クノタチホさんが「ルッキズム」をテーマに斬り込んだ話題の小説『コンプルックス』(サンマーク出版)を紹介します。
容姿にコンプレックスを持つ女性たちの生きにくさ
美容室“ナルシスの鏡”には自分のイメージした通りの美しい姿に変身させる力を持つ不思議な鏡があります。自分の容姿に心から絶望した人がその鏡の前に座ると、鏡の中に吸い込まれて思い通りの美貌が手に入ります。しかし、その姿はあくまで鏡の中にある仮想現実で、66日を過ぎても仮想現実の中で生きることを決めると、もといた世界で自分の存在が消滅してしまうといういわくつきの鏡だったのです。
作中に登場する祐子は自分がゴリラ顔であるという自覚があるものの、見た目にすごくこだわるタイプ。彼氏には「中身だけでなく見た目も大好き」と言ってほしくて、一緒に住む物件探しで彼氏が建物の外見を気にせずに内装がきれいな部屋を重視している姿にもやもやします。
心理カウンセラーの愛菜はしゃくれた顎を「ユニークなパーソナリティである」と自身に言い聞かせ、まわりにも自分の顔はそのままの姿で良いと話しています。“ありのまま”を信念としたブログで人気に火がつき著書がベストセラーになったものの、時代は文字主体のブログから動画の時代へ。発信者に容姿の美しさが求められるようになったことに、息苦しさを感じています。とはいえ愛菜は、外見を重視する人のことを心の中で軽蔑していて美容医療に否定的。内面の美しさに目を向けることこそが知性であると考えています。
そんな二人の女性を中心に物語は展開。彼女たちがナルシスの鏡を通じて、幸せになるための「本当の自分の姿」を探し求めていきます。
コンプレックスと向き合うことで「自分の幸せ」が見えてくる
小説が掲げるテーマは「ルッキズム」と「コンプレックス」。
タイトルの「コンプルックス」はこの二つを組み合わせた造語です。
バイセクシャルの女装家であり、心理カウンセラーとして活躍する著者ならではの知見と視点を生かし、外見と内面の美意識について苦悩する女性の姿をリアルに描いています。
祐子と愛菜は“ナルシスの鏡”に魂を吸い込まれ、鏡の中でコンプレックスのない理想通りの美しい容姿を手に入れます。しかし、単純に美しくなったから幸せになれるとは限らない。だからといって、外見よりも内面の美しさにこそ価値があると思い込むのも違う。
この仮想現実では、元の自分とそっくりな容姿のドッペルゲンガーが登場します。対極の世界で起こる出来事の数々だけでなく、このドッペルゲンガーたちの生き方に触れたとき、祐子や愛菜がどのような気づきを得るのか、というところも、本作の大きなポイントです。
読後は、ルッキズムやコンプレックスというテーマに対しての新しい視点が得られるかもしれません。
容姿がコンプレックスなら美容医療の力を借りて変わってみることも「自分の幸せにたどりつく」ひとつの方法かもしれません。もちろんそうしなくても内面と向き合ううちに、容姿の悩みを克服し、幸せの答えを見つける人もいるでしょう。
外見を美しく磨くこと、内面に目を向けること。正解はひとつではなくて、自分にとって何が幸せなのか。大切なのはやせ我慢をしないこと。自分がどうなりたいのか「感じる」こと。
そんな気づきを与えてくれる作品です。
<書籍情報>
『コンプルックス』
価格:1,870円
出版社:サンマーク出版
著者:クノタチホ
女装家セラピスト。バイセクシャルとしての恋愛・SEXの経験をもとに3,000人以上の異性関係の改善に取り組んできました。米国NLP協会認定トレーナー、内閣総理大臣認定NPO認定心理カウンセラー一級、アルマ・クリエイション認定フューチャーマッピングファシリテーターの有資格者。
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