俳優・醍醐虎汰朗が考える“自己主張” 「今はまだ、そのときではないのかな」
撮影:屋山和樹(BIEI)
スタイリスト:MASAYA
ヘア&メイク:中元美佳
どのシーンも「青春だな」と思いながら演じていた
日本の夏の風物詩のひとつが、「選抜高校野球大会」。この開幕直後、公開されるのが高校球児たちの知られざる日常と生態をリアルに描いたコミック『野球部に花束を 〜Knockin ‘On YAKYUBU’s Door〜』の映画化『野球部に花束を』だ。“昭和”が遠くなった今、鬼コーチや理不尽なルールなどがひしめく高校野球部をコミカルに描いた作品で、映画初主演を射止めた、醍醐虎汰郎さん。野球部員・黒田鉄平を演じる醍醐さんの丸刈り頭のきれいな形が目を惹く。
「丸刈りにした後、スタッフさんや友だち、いろんな人に『頭の形がきれい』と褒めていただきました(笑)。自分でも気づかなかったので嬉しかったですね。実は中学生の頃、一度だけ丸刈りにしたことがあって、今回が2度目。そのときの自分の姿の記憶がないので、今回丸刈りにした最初の数日間は、鏡を見るたび『誰、この人?』と思いました。丸刈りならではのファッションを楽しむ、という手もあったんですが、その時期は舞台『千と千尋の神隠し』の稽古が重なっていたこともあり、ほとんどジャージで過ごしていました。でも、お風呂ではボディソープでガーっと頭から全身洗っておしまいなので、時間が短縮できて最高でしたね。寝癖もつかないし」
中学生時代はサッカー部に所属。野球に挑戦したのは今回が初めてなのだそう。
「野球の経験は友だちとキャッチボールをしたり、バッティングセンターに行ったりしたくらい。主演に決まったときは本当に嬉しかったんですが、触れたことのないスポーツだったので『説得力を持たせるためには、ある程度できるように練習を頑張らなくては』と、まずは思いました」
劇中では、野球に没頭した中学時代に別れを告げ、高校デビューを目指して茶髪で入学式に挑んだ黒田鉄平。しかし、上級生やクラスメイトに誘われて、うっかり野球部に入部してしまう。
「とにかく、“カッコよくならないようにカッコつけよう”と意識しました。座り方もイキっているけど、ちょっとダサい。でも鉄平を軸に物語は進んでいくわけだから、愛されるようにしないといけないなと。可愛いイキリを自分なりに研究しました」
“愛すべきバカ”な男子高校生たちの姿や、劇中のところどころに出てくる、元プロ野球選手で現在YouTuberとしても活躍する里崎智也の「野球部あるある」。野球部経験者でなくとも昭和の大人から令和の若者までが共感して笑えるストーリーになっている。
「部室での着替えや厳しい練習、時には理不尽なコーチや先輩の言葉、部活帰りのハンバーガーを食べながらの女の子の話とか、どのシーンも『青春だな』と思いながら演じていました。一度でも運動部を経験した男性なら、懐かしい気分になれるだろうし共感できるだろうなと思います。女性には『男って、女性がいないところではこんなにバカなんだな』と思って楽しんで観ていただけるんじゃないかなと思います(笑)」
見かけやルーツは気にしない、結局は“人対人”
中学3年で自ら事務所のオーディションに応募し、俳優としてのキャリアをスタートさせた醍醐さん。友人とのその場の“ノリ”で応募を決めたという。
「『部活を引退して暇だしやってみようか』くらいのノリだった思います。事務所に所属して約1年半くらいはエキストラの仕事がメインでした」
そんななかで、醍醐さんの仕事に対する意識は徐々に変わっていったそう。
「キャストの方々はベンチコートを着て、待機場所で休んでいるけど、当然エキストラにはない。キャストの方はバスだけど、僕らは歩いて移動。培ってきたキャリアが違うわけですし、あたり前のことなんですが、当時の自分はただ“悔しい”という気持ちが強かった。『あっち側に行くぞ!』と、常に自分を奮い立たせていましたね。まずは事務所の人に自分の顔を覚えてもらおうと、学校が終わってから事務所にマメに顔を出したり、現場にいち早く着いて準備したり。一つでも爪痕を残そうとしていたんだと思いますが、『よくそんなことできたな』と今では思います(笑)。空気も読めてなかったし、今では絶対無理です。何もわかってないからこそ、“自分”“自分”“自分”で行動していたんだなって。その頃への後悔は1ミリもありませんが、今思うとちょっと恥ずかしいですね」
今ではマネージャーやスタッフのサポートを経て、気負うことなく自然体で自分を表現できている。
「無理に“個”を立たせよう、と思うことはなくなりました。俳優は、いろんな人間を演じることができる職業。個が強くなりすぎると、イメージがつきすぎてしまうかなと思うこともあるので。まずは、いただいた仕事に徹底して向き合って、自分の個性に関しては意識せずにラフでいきたいですね。また、まわりにいるマネージャーさんやスタッフさんが、ダメなところはピシッとしかってくれるんです。たまに落ち込むこともあるんですが、無理に気分を上げたところで根本的な解決にはならない。落ち込んだときは、シンプルに忘れるまで待つ。解決してくれるのは、時間しかないと思うので」
明るい笑顔ではっきりと話す醍醐さんは、ポジティブなオーラであふれている。そんな醍醐さんが惹かれるのはどんな人なのか?
「やっぱり、ポジティブな人ですね。僕のまわりにはスタッフさんも友だちも、みんな前向きで陰口を言うような人は誰もいない。ネガティブな発言をしないことって、すごく大事だと思うんです。世界にはいろんな人がいるので、そういう人とたくさん仲良くなりたいですね。僕は見かけやルーツは気にならないです。結局は“人対人”、それだけですから」
2022年9月には22歳になる醍醐さん。その後は映画『カラダ探し』や、連続テレビ小説「舞い上がれ!」など、続々と出演作品が公開、放映される。そんな醍醐さんの次なる目標は?
「まず、第一線で活躍する俳優になりたいという思いがあります。仕事に関しては、マネージャーさんのほうが、僕よりも僕の今後を考えてくれていると思うので、僕は目の前のことに集中します。ある程度の位置にいったと自分でも思えたとき、何をしたいかが見えてくるかもしれません。今はまだ、そのときではないのかなと思っています」
『野球部に花束を』
【監督】飯塚健
【出演】醍醐虎汰朗、黒羽麻璃央、駒木根隆介、市川知宏、三浦健人、里崎智也(野球解説者)、小沢仁志、髙嶋政宏
8月11日(木・祝)より、全国にて公開
野球に没頭した中学生活に別れを告げ、茶髪で入学したはずの鉄平(醍醐虎汰朗)は、同じく野球部で活躍していた桧垣(黒羽麻璃央)らと見学に行き、半ば強制的に野球部に入れられてしまう。坊主頭に逆戻りした彼を、鬼監督や後輩を奴隷扱いする先輩の下での、時代錯誤で過酷な日々が待っていた。