未経験でデザイン業界に乗り込むシングルマザーを救った、「行動力」と「美しさ」
撮影:森山 越
仕事を獲得するために「キレイでいること」が重要と実感
50歳になったばかりという、canaryさん。若々しいファッション、メイク、ヘアスタイル。待ち合わせ場所では年齢相応の女性を探していたので、しばらく同じ場所にいたのに気がつかなかった。
「若く見られるとやはりうれしいですね。フリーランスの仕事なので、見た目はとても大事にしているんです」
と無邪気に笑うcanaryさんだが、50年の人生でたくさんの苦労も味わってきたという。
「父方の家系はアパレル関係に従事していた人が多く、私も当然のようにアパレルの仕事に就きました。36歳のときちょっと病気になりまして、立ち仕事が辛くなってきたんです。いい機会なので、アパレルの仕事をすっぱり辞めました」
このときには離婚を経験し、シングルマザーとなっていたcanaryさん。「とにかく仕事を再開しなくては」と焦っていたと言う。
「横浜市で『シングルマザーのための就職カウンセリング』を開催していたんです。何時間もいろいろと話をしたあと、カウンセラーの方が『習得するのに少し時間とお金がかったとしても、あなたはデザイナーの道に進んだほうがいい』とアドバイスをくれたんです。それまでは自分の人生は全て自分で決めてきたのですが、その結果つまづいたり、失敗したりしてきた(笑)。だから、私の中で『今回はこの人の言うことに賭けてみよう』という気持ちがあったんです」
そこからデザインのスクールに入り、マンツーマンで指導を受けた。
「生活があるし、悠長なことは言っていられない。『特急でできるように指導してください』とお願いして、右も左もわからないなか、なんとかできるようになったんです。追い込まないと前に進めない性格なので、そんな状態なのに事務所を借りて、仕事もないのに毎日10時に出社していました(笑)」
そこからはとにかく、たくさんの人と会って、仕事をもらえる機会をつくったという。知り合いの知り合いやFacebookで知り合った人、どこにでも誰にでも会いに行った。
「とにかく“仕事につなげなくちゃ”という意識が高かったので、全国津々浦々、どこへでも行きました。その頃知り合った方で、今でもお仕事をいただいている方もいます。なんだかんだ言って楽しかったですね。やはり『初めて会う人には印象を良くしなくちゃ』という気持ちがあったので、見た目を磨くのも頑張りました。この頃は自分の人生で、一番“いい女”だったと思いますね(笑)」
「キレイでいることは武器になる」と実感したというcanaryさん。30代はこうして駆け抜けたが、40代に入ると加齢には抗えなくなってきたと語る。
「真剣に話しているうちに、自然と眉間にシワが寄ってきて、相手に『また眉間にシワ寄せて怖い顔になっている』と言われるようになって。そうなると俄然、自分でも気になってしまって、すぐに美容医療をリサーチしました。43歳くらいのときだと思います。わりとズボラだし、スキンケアに手間ひまをかけている時間もないので、自然と美容医療に目が向きましたね。調べてみると、『ボトックス』と『プリマリフト』(溶ける糸でフェイスラインを引き上げる施術)、『顎クレヴィエル』(顎をシャープにするヒアルロン酸)のお得なセットがあったんです。エラが張っているのは子どもの頃からのコンプレックスだったので、いっぺんに解消できていいなと、即決めました。それ以後、『ボトックス』はだいたい4カ月に1回、トータルでもう10回以上は受けていますね。『メスを入れなくてもここまで変わるんだ』、と実感しました」
美容に執着するのは、自分をポジティブな状態に持ち上げるため
シングルマザーとして育て上げた娘も20歳となった。娘とは一緒にカラオケに行ったり、買い物に行ったり、姉妹のように仲がいい。
「習い事や学校、それ以外でも多くのお金がかかったことはありませんし、娘は子どもの頃から割と自立していて、私自身が娘のことで苦労したことはありません。子どもにお金をかけて自分は二の次というお母さんもいると思いますが、“私は私”“娘は娘”と思っていて、娘に自分の全てを持っていかれるのは違うなと思っていました。もしかしたら、そのシワ寄せが娘に来ていたかもしれませんけど(笑)。今ではふたりで仲良く暮らしていますよ。娘も二重にする施術を受けたことがありますが、もし今後『ボトックス』を受けたいと言ってきたら、もちろん『どうぞどうぞ』と。『一緒に行こう!』と言っちゃうと思いますね」
ハキハキとした口調や親しみやすい笑顔で、ポジティブな雰囲気のcanaryさん。でも自分ではポジティブだとは思っていないそう。
「もともとは全然ネガティブ。美容に執着がある人って、実は自尊心が低い人が多いんです。自分をポジティブな状態に持ち上げるために、キレイになろうと思っているんだと思うんです。娘は10代から施術を受けたてきたからか、私よりもずっとポジティブで自己肯定感が高いですね。『二重になってダイエットも成功して可愛くなったのに、なんで彼氏できないのかなぁ』なんて言っていますよ。私は『もっともっと可愛くおなり』と、娘に言ってます(笑)。娘が自分の働いたお金で美容医療を受けたいというなら、全く止める気はありません」
コロナ禍の煽りを受けて、立ち上げた自身のデザイン会社は一旦クローズ。現在は自宅で仕事をしている。始まったばかりの50代の夢は? と聞くと……。
「いろんな苦労をしてきたので、その分、豊かに暮らしたいですね。仕事は人からいただくものなので、これからも『人に会うためにキレイにしていかなくては』と思います。そしてまた自分の“基地”である事務所をつくりたいですね。そのために、たくさん稼がなくてはと思っています」