Documentary

ファッションアイテムは経年変化を楽しみ、
人は日々、外見のアップデートを楽しむ

2023.02.16
ハズム
取材・文:桑原 恵美子
撮影:小川 遼
取材協力:DAN
ハズム 経験施術は、医療脱毛、ハイフ。
29歳。2016年からファッション系YouTuberとしての活動を開始。2023年現在のフォロワー数は約12.9万人。妻で同じくファッション系YouTuberでデザイナーの関根メグミさんとともに中目黒でセレクトショップ「DAN」を営む。
YouTubeチャンネル「ハズム」
Instagram
ファッション系YouTuberの草分け的存在として、多くの熱烈なファンをもつハズムさん。地方の工専出身で、周囲にアパレル関係に進む人が皆無という環境から、どのような道をたどって現在のポジションにたどりついたのか。

高校生になるまで、ファッションには全く興味がなかった

ハズムさんがファッションに目覚めたきっかけは、制服のない工専(5年制の工業系学校)に進学したこと。それまでファッションには興味がなかったので、「もし制服のある高校に通っていたら、現在の仕事には就いてなかった」という。

「5年制で、さらにその上の短大まであったので、年の幅でいうと15歳から22歳くらいまでいるんです。上級生の中にはオシャレなブランド物を着たりしている人もいて、それを見て憧れたのがファッションに興味を持つようになったきっかけですね」

ハズムさんインタビュー中

もともとオタク気質のハズムさんは、どんどんファッションに傾倒していき、やがてファッション関係の仕事に就きたいと真剣に考えるようになる。

「そのままいけばシステムエンジニアになるコースでしたが、自分がそういう仕事をしている姿が見えてこなかったんです(苦笑)。でもまわりにはアパレル関係に進んだ先輩なんて一人もいなかったので、どうやったらファッション関係の仕事に就けるのかまったく分かりませんでした」

地方にいたこともあり、ファッション情報は雑誌頼み。愛読していたメンズファッション誌でスタイリストという仕事があるのを知ったハズムさんは、憧れていたスタイリストに直接連絡をとり、運よく弟子入りできることになった。

「もしそれでモノにならなかったとしても、1年間くらいなら新卒扱いで工業系の仕事に就けるという計算もありました」

胸をときめかせて上京したものの、挫折は早かった。「無理」と思った最大の理由は、仕事を教えてもらう代わりに無給だったので、生活の不安があったこと。そして何より仕事の内容が想像していたものと全く違ったこと。たとえ生活苦を辛抱して独立したとしても、その先に自分のやりたいことはないと早い段階で分かってしまった。

ハズムさんポートレート、サングラス姿

辞めて2週間くらいは落ち込んで引きこもりになっていたが、「いくらなんでもそろそろ働かないといけない」と思って訪ねたのが、「カインドオル」というブランドのリユースショップだった。

「僕が最初からショップを目指さなかったのは、極度の人見知りなので接客をしたくなかったから。でもカインドオル原宿店で買い物をしたときのスタッフの方が、ほどよい親しみやすさで淡々と分かりやすくアドバイスしてくれて。お兄さんみたいな心地いい接客だったんです。ここなら働ける、働きたいと思いました」

もともと興味を抱いていたのは、コーディネートよりも個々のブランドのアイテム。カインドオルはファッション感度の高い人たちが実際に着ていたブランド品を買い取って販売する業態だったので、セレクトショップなどより、市場の人気ブランドの流行がリアルに肌で感じられる職場だった。

ハズムさん服を整え中

「なんか、全てが自分に向いている得意な作業だなと感じました。例えば買い取りして査定をするのも、学生時代から服が好きでネットでよくチェックしていたし、古着もよく買っていたので価格の相場がある程度分かりました。パソコンで打ち込むのも、工業系の学校を出ているので得意でしたし」

偏愛するアイテムの発信がビジネスとして形になるかもしれないと思った

2年後には同系列の吉祥寺店を任せてもらえるまでになったハズムさん。「全部任せるから好きにやってくれ」と言われたとき、工夫したことで結果が出せるのが面白いし、プラスになりそうなことはやってみようと思ったという。SNSが仕事に使われ始めていた当時、ハズムさんもInstagramの利用を考えたが、参入するには遅すぎるし、ファッションを深く語るのは難しいと感じたそう。そこで着目したのが、YouTubeだった。

「2017年頃だったんですが、当時はHIKAKINさんのようなタイプのYouTuberしか目立っていない時期だった。ファッション系もプチプラのコーディネートを紹介するようなスタイルの方しかいなくて、マニアックなブランド、純粋に自分がそのとき好きなものを紹介しているYouTuberって、ひとりもいない状況だったんです。それで始めてみることにしました」

1~2本アップしたときは知り合いにしか見てもらえなかったが、4~5本まとめてアップしたときに一気にフォロワーが増えた。1カ月ほど続けるとさらに伸び始め、やがて毎月1万人程度増えていった。

「吉祥寺のお店はわかりにくい場所にあったので、1日に10人くらい入ればいいほう、という感じだったんです。でもフォロワーが1万人を超えたあたりから、その2~3倍の人が来るようになって、『あれ、なんか今日はお客さんが多いな』『なんかこっちをチラチラ見てるな』って(笑)」

ハズムさんのアイテム。調光レンズ

それだけフォロワーも来店数も増えたら、さぞかし店の売上アップにつながったのでは、と思うが、意外にもほとんど変化はなかったという。それは「宣伝っぽくするのは嫌だな」と、店の商品ではなく自分の私物しか取り上げなかったからだった。

当然ながら、来店した客の多くはハズムさんが紹介したアイテムを求めてくる。それが繰り返されたことで、「もしかしたら、自分で紹介したものを自分で売ったら、何かビジネスとして形になるかもしれない」という想いが芽生えはじめた。

めぐさんのアドバイスがポップアップショップの開催へ。
ファンの要望から経年変化していくお店へ

とはいえ、収入の大半をファッションアイテムに注ぎ込む生活だったので、貯金はほとんどないに等しく、資金が必要なブランド古着店は難しいと感じていた。そんなときに出会ったのが、後に妻となる17歳年上のメグミさんだった。

ハズムさんとメグミさん

「めぐさんは、ずっとストイックにショップをやってきた人。そんなめぐさんが『できるよ』って言ってくれたのが大きかった。『ブランドにお願いして、期間限定でポップアップショップを開くという方法もある』とアドバイスをしてもらって、確かにそういうことも面白いかもと思ったんです」

そこで、今までYouTubeで紹介したブランドを集めたショップを1ヶ月限定で開いたところ、本人が予想しなかったほど多くの来店があった。期間を過ぎても客足が絶えない状態から、ファンの要望に応える形でブランド「ダン(DAN)」を立ち上げ、そのまま2018年に中目黒にセレクトショップ「DAN」をオープン。「経年変化の、その先にあるもの」というブランドコンセプトを掲げて、現在も高品質で長く愛用できるファッションアイテムを中心に、遊び心にあふれるコラボアイテムなどを販売している。

ハズムさんセレクトショップDANにて

「長く使って雰囲気が良くなっていく服や小物が好きで、YouTubeとかでもよく『経年変化』というワードを使っていたんです。なぜかそれが視聴者の方に浸透していて。よく考えると、見る人によって何かいろんな想像ができる深い言葉だなと思って、コーポレートスローガンにしました。それと、ロゴとのバランスでちょっとつけたところもあります(笑)」

YouTuberのイメージが大きく変わってきたように
美容医療に対するイメージもこれから変わっていく

妻のメグミさんは、ハズムさんと出演するようになったことで、自身の経年変化に改めて気づき、さまざまな美容医療にチャレンジ。自身のYouTube番組「めぐさんTV」で紹介した動画は大きな反響を呼んでいる。

ハズムさんポートレート

「最初にその決意を聞いたときは、自分の中では『今のままで全然いいのに』って思ったんです。でも、めぐさんが自分で納得のいくようにトライした結果、自信を持てるようになった姿を見て、考えが変わりました。実際、出会った頃の写真と今を見比べると印象がかなり違うんですよ。本人もたぶん、誰だか分からなくなるくらい変えたいということじゃなくて、気になるところを少しだけ整えていきたいっていう感覚だと思うんで、良いことだと思っています」

そんなハズムさんも最近、ひげ脱毛の施術を受けた。ひげが濃いほうではないが、自身の動画を見返したとき、少しでも残っていると気になるし、面倒だと感じたからだ。もちろん、先に施術にトライしたメグミさんが「メリットしかない」と語っている影響もある。まだ7回目だが、やったらやっただけ薄くなって楽になるので、やって良かったと語る。

「美容医療って、男性は抵抗があるというか、ネガティブなイメージを持っている方もいると思います。でもYouTuberだって最初は世間から、良くないイメージがあったと思う。なんか、世間知らずが甘い考えで世間をナメてやっているみたいな(笑)。でも今はそうじゃなくなってきていますよね。そういう価値観って、日々すごいスケールでアップデートされていると思うんです。だからこれから、さらに大きくイメージが変わっていくと思う。僕は今29歳ですが、30代40代と進むにつれ、気になるところが出てくると思う。これまでいろいろ新しいことに挑戦してきたのと同じように、外見のアップデートにも挑戦していきたいですね」

ハズムさんポートレート全身ver
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