さらば、髭。別れることへの本気度は、入念な準備に表れる
撮影: 森山 越
地元熊本で就職し、2年ほど前から東京に出向中。医療用カーテンの製造等を行う会社に勤務し、現在は社内向けのITサポートが主な業務。趣味はパソコンの組み立てや電子工作で、休日は家にいることが多いというインドア派。基本的にはなんでも一人で楽しめるタイプ。
「T字剃刀」は日々の
相棒であり、敵でもあった
父親が地元・熊本でソフトボールの社会人チームで活躍していた影響もあり、五島さんも高校時代はソフトボール部に所属して、ピッチャーとして鍛錬していた。
「毎日庭で投げ込みを行っていました。大会などで大きな成績は残せませんでしたが、熱中して取り組んでいましたし、充実した日々でした」
物事に対しては常に真剣に臨み、周りには流されずに少しずつでも確実に前に進んでいくタイプなのである。そんな五島さんが中学生の頃から悩まされていたのが、濃い体毛だった。
「中学2年の頃から5枚歯のT字カミソリを使っていました。電気カミソリではきちんと剃りきれずに、どうしても剃り残しが。でもT字カミソリでは剃刀負けをすることが多くなったり、肌が荒れたり、青ひげが気になったりと、いいことがなかったですね。ですから髭が伸び始めた頃は、本当にいやで憂鬱でしたね」
その後、地元で就職した五島さんは、医療用カーテンを、病院を回って設置・交換する業務に携わる。すると必然、医師や看護師、患者さんたちと顔を合わせる機会が俄然増えてくる。
「例えば剃刀負けして傷がついている自分の顔を、先方がじっと見ていることがあるんです。その視線が気になって、相当大きな精神的負担となってきました。一日に不特定多数の人と接する毎日ですから、朝だけではなく午後から夕方になると伸びてきている髭をまた剃らなければならないんです。そうしたことが脱毛に踏み出すことへの、大きなきっかけとなっていると思います」
また、毎度髭を処理する労力にも疑問を持ち始めていた。
「毎朝10分ほどかかります。もともと日々の生活をなるべくラクにしたいと思っていたので、煩わしかったです。それが一日2回も必要なわけですから」
そして思い立ったのが5年前、23歳のときである。
すべて一人で決めました
親にも誰にも話さずに
脱毛に関して興味を持ちはじめた五島さんはまず、これらの施術を行っている病院のホームページを見て回った。
「今は男性向けのトピックや施術案内もかなり充実してきていますが、当時はほとんどありませんでした。そんな状況の中、必死に情報を集めました」
その段階で、誰かに相談したり助言をもらったりはしなかったのか。
「すべて一人で決めました。親にも話していません。思い立った後は、まったく迷いはなかったです。情報収集をした後、疑問に思っていることや不安な点など、聞いておきたいことをリスト化しました。そしてレビューなどの記事を読んだ上で、カウンセリングに相談するというステップを踏んでいきました」
誰にも相談せずに施術を行う。それは自分で自分の本気度を試すことでもあったと五島さんは言う。そして、ご自身一人でそれができる性格でもあったのだ。万全の準備を整えた上で、自分が納得する知見を得て、そして初めての施術に臨んだ。
「事前準備を、やれることはやった上ではありましたが、それでも最初の施術を迎える前は不安や緊張がありました。でも、1回体験することによって、自分の中でそのハードルがガクンと下がりました。やはり体験が一番なんです。それと、思っていたよりも病院に施術を待つ男性が多かったというのも驚きでした」
体毛に煩わされる心身への負担は一気に小さくなったが、最初はちょっと痛かったと本音も漏らしてくれた。
「施術中は麻酔を使用しているのですが、バチンバチンという感じで処理しているのはわかります。痛みがないとは言えませんが、でもそれに見合った、いや余りある効果があるというのが実感です」
その後は1~2ヶ月おきに一度の施術を続けた。そのたびに効果の大きさを感じている。
「今は週に1回の髭剃りで済んでいます。肌荒れも剃刀負けもしなくなり、青ひげもありません。本当に気持ちがラクになりました。もちろん、毎朝の処理という物理的な労力からも解放されました」
親にも相談せずに実践した脱毛。しかしやはりそこは親だ。脱毛をはじめてしばらくした頃に、母親が言った。
「髭が薄くなってきたんじゃない」
おそらく薄々は気づいていたのかもしれない。それでも直接の理由については尋ねられなかった。それを親心というのかもしれない。
「全身ツルツルになりたいですね」
美容の意識は確実に高まっている!
5年前に始めた髭の脱毛も、すでに20回以上を数えた。脱毛の後、保湿のために勧められた化粧水やクリームも習慣となりつつあり、美容の意識はこれをきっかけに高まってきていることは自分でもわかる。ある意味、髭脱毛によって五島さんは美容に目覚めたのである。
「髭の脱毛を始めて少しすると、今度は他の部分の体毛も気になってきてしまいました。そこで今はVIOの脱毛もはじめています。脇の脱毛をした後は、全然蒸れることもなく非常に快適です」
そう話す五島さんの目はとても生き生きとしていた。そしてさらにその先の「プラン」も披露してくれた。
「そうなってくるときっと、最終的には全身脱毛ということになるんでしょうね。ツルツルになりたいですね」
体の一部分だけ綺麗に脱毛されているのに、他の部分は気にせずに、無頓着に暮らしていくことは、どうしたって難しいことなのだ。これは脱毛経験者には痛いほどわかるはず。だからしばらくはまだ施術を続けていくつもりでいる。それは、これからの人生をも楽しく、ラクにさせてくれる大切な「手続き」でもあるのだ。
一人で過ごす時間が好きだという五島さんは、自分があまり自信を持てないタイプの人間だということを理解している。それが逆になんでも自分一人で意思決定し、実行していくという「力」に繋がったといういい面もあるのだが、脱毛を経た現在、以前よりは心に余裕を持てるようになってきたという。
「具体的にどう、という部分はまだ朧げなのですが、物事に対する考え方などが変わってきているな、という感じはあります」
同じように体毛で悩んでいる人がいれば、自分の体験を話して背中を押してあげることはある。これは以前の自分にはあまりなかったことだ。もし施術を躊躇している人がいたら、あるいは男性美容に偏見を持っている人がいるとしたら、その初めの一歩を自分が後押ししてあげて、この素晴らしい世界を一度見てもらいたいと思っている。五島さんの脱毛体験は、「成功例」と言っていいだろう。それは五島さん自身も感じている。今後の脱毛プランも固まりつつあり、そしてゴールもそう遠くない。そんな中、五島さんの興味が新たな方面へ向きはじめた。それは「医療ダイエット」だ。
「ちょっと、お腹まわりなどに肉がつき始めてしまって……」
とはにかみながら話してくれた。20代後半、そろそろそういうことも気になりはじめる年齢なのか。だがこれも、脱毛を体験したことによって男性美容に対する五島さん自身のハードルが大きく下がったことで、それが身近に興味の対象となっていったのだろう。外面の変化が、内面へも大きな影響を与える。五島さんの話を聞いていると、それを強く感じる。周囲にそう感じさせるのであるから、ご自身はさらにもっと大きな確信をつかんでいるに違いない。