Documentary
Documentary #Art #Gender

男性でも女性でもない僕が、ありふれた存在になるために必要なこと

2021.11.29
そーすけ
取材・文:有竹亮介(verb)
撮影:鈴木真弓
そーすけ モデル、イラストレーター。女性の体で生まれたが、幼い頃から自身の性別に違和感を覚え、20歳頃からLGBTQ+当事者であることを自認。現在はさまざまなセクシュアリティに関して、SNSを通じて情報発信を行っている。
SNS上で、自身の写真やイラストを発信しているそーすけさん。その鋭いまなざしにドキッとさせられるが、人当たりはやわらかく、ふと見せる笑顔にはあどけなさが残る。独自の雰囲気を漂わせるそーすけさんのセクシュアリティは「マーベリック」。男性でも女性でも中性でもない、独立した性別を指すその言葉と生きる、そーすけさんの思考に触れた。

僕の性別は「マーベリック」
男性でも女性でも中性でもない独立した性

「最近は、マーベリックという言葉を使おうと思ってるんです」

僕の性別は「マーベリック」
男性でも女性でも中性でもない独立した性

つい最近まで、自分の性別をクエスチョニングと表現していた。クエスチョニングとは、「自身の性別が確定していない」または「限定しない」といった意味合いのセクシュアリティ。

「クエスチョニングの宙ぶらりんな感じがしっくりこなかったというか、自分には合っていない気がしていたんです。最近、海外の文献からマーベリックを知って、こっちの方が自分の感覚に近いかもしれないって思ったんですよね。『男性でも女性でも中性でもなく、まったく別の性別』という概念が、自分のなかでしっくりきました」

文献にはこのように書かれていたという。「男性が青、女性が赤だとしたら、マーベリックは黄色である」と。男女が混ざり合った性ではなく、独立した性なのだ。

「マーベリックを表現する黄色、白、オレンジのフラッグがあることも知りました。黄色は男女という二つの性別から分離していること、白は独自のアイデンティティであること、オレンジは独立心や信念を表しているそうで、それぞれの意味合いが自分にすごく当てはまると感じたんです。男女とはまったく別の領域にいる、という感覚があります」

自身の性別はマーベリックと自認しているが、恋愛対象や恋愛感情の有無を意味する性的指向は、アロマンティックアセクシュアル。

「他者に恋愛感情を抱かないアロマンティックと、他者に性的欲求を抱かないアセクシュアルの両方に当てはまります。自分のなかでは、そういう意思がないんですよね」

僕の性別は「マーベリック」
男性でも女性でも中性でもない独立した性

やんわりと自分の存在を否定された気がした

幼い頃から、性別に対する違和感を覚えていたそう。例えば、作文の書き出しが男の子は「僕は」、女の子は「私は」と異なることに疑問を抱いた。中学校の制服でスカートをはかなければいけないことも、おかしいと感じた。

「でも、幼いながらに『体が女の子だから、そうしなきゃいけない世界なんだ』と解釈して、受け入れてました。体の性別と心の性別が共通していることが、この世の“普通”とされているんですよね。ただ、僕は体と心は必ずしも一致しないという感覚が小さい頃からあったし、なるべく分けて扱ってほしいと思っています。心の性別って、本来は人間の数だけ存在する固有のものだと思うので、男性と女性という体の性別にとどめるのは難しいんじゃないかなって」

その思いを抱えながらも、高校までは周りの教師や友人が性別や恋愛に言及してくることがなかったため、自身の性別を意識せずに済んだ。壁にぶち当たったのは、高校を卒業して社会人になった時。

「社会人になって、今までより年齢層が高い人やまったく違う生活を送ってきた人と関わる機会が増えたことで、セクシュアリティの壁にぶつかったんです。当たり前のようにコイバナが展開されて、恋愛する前提で『どんな人が好きなの?』と聞かれることが衝撃だったし、恋愛感情を抱かない話をすると『いい人と出会ってないだけだよ』ってやんわりと自分の指向を否定されることがストレスでしたね。職場では何気ない部分で女性扱いされることも多くて、二つの性別のどちらかに当てはめようとされることが苦しかったです」

やんわりと自分の存在を否定された気がした

息苦しさを感じた時に、うっすらと知っていたLGBTQ+という言葉が自分に関係するものなのではないかと感じて調べ始めた。そして、クエスチョニングという言葉と出合う。

「自分の居場所が見つかった気がして、安心感がありました。言葉が存在するってことは、一定数同じ感覚の人がいて、他者に伝える必要があったということですよね。そう考えたら、自分がおかしいわけじゃないし、一人じゃないんだって感じたんです。『自分は変じゃないからこのままでいい』って芯ができてからは、自己表現しやすくなったし、自分のことをありのまま話せるようになりました。周りにどれだけ否定されても、僕はここに存在してるんだからって思えるようになったんです」

セクシュアリティを表現する言葉が
自分を知ってもらうきっかけになる

マーベリックをはじめ、セクシュアリティを表す言葉は日々増加している。そーすけさんはその一部をイラストに描いたり、ライブ配信で解説したりといったかたちで世の中に届けている。

そーすけさんのイラスト。
そーすけさんのイラスト。
そーすけさんが実際にSNSにアップしているイラスト。
そーすけさんが実際にSNSにアップしているイラスト。

「セクシュアリティを表現する単語が細分化されていくことは、いいことかなと思ってます。言葉にとらわれすぎると、『このセクシュアリティじゃなきゃいけない』って窮屈に感じてしまうかもしれないけど、一方で自分自身を説明するための指標になるという一面もあるからです。自分のことを言葉だけで表現するって難しいけど、軸となるカテゴリーが存在すれば相手も認知しやすくなると思います。それに、セクシュアリティを表現する単語があれば、そのセクシュアリティについて調べやすくなるし、興味や関心をもってくれる人が増えて、認知されやすくなるはずなんです。ゲイやレズビアンのように、その単語だけで何を表しているかわかる共通言語として、いろいろな言葉が広まっていくことは、とてもいい変化だと考えています」

SNSに上げている漫画やイラストは、調べた言葉を整理するために描いたもので、誰かに届けようと思って投稿を始めたわけではなかった。たまたま見てくれた人たちから、「わかりやすくて助かりました」というコメントが届くようになったのだ。

「今は、『セクシュアリティについて知りたいけど、探し方がわからなかった』という人の手助けになれたらと思って、投稿や配信をしています。クエスチョニングやアセクシュアルという言葉を知れば、そこからは自分で調べられるようになると思うから、僕のイラストや話をそのきっかけにしてもらえたらうれしいですね」

セクシュアリティを表現する言葉が
自分を知ってもらうきっかけになる

異なる価値観が“受け入れる心”を育てるから、人とつながっていくことはやめない

そーすけさんの日課は、散歩。仕事帰りに一人でふらりと歩くのも好きだが、最近は人を誘って歩きながらしゃべる時間が好きとのこと。

「座って面と向かってしゃべるのもいいんだけど、歩きながらしゃべる方が間を気にしなくていいから、話が弾むんですよね。それに、歩くことで創造性も上がるらしいって聞いたことがあります。アイデアが生まれやすくなるし、頭の整理にもなるから、散歩が好きなんです」

一緒に散歩をする人はSNSで募ることもあれば、マッチングアプリで探すこともあるそう。あえて初対面の人と歩くのは、知らなかった価値観や情報に触れるため。

「最近、『Tinder』ってマッチングアプリで、クエスチョニングやエイセクシュアル(アセクシュアル)といった性的指向を設定できるようになったので、使い始めたんです。マーベリックがないので僕はクエスチョニングを使っているんですが、相手は最初から僕のセクシュアリティをわかった上でマッチするので、話が早いんですよね。そこで『散歩相手を探してます』って募ると、意外と多くの人が応えてくれます。一度、ストレートのシスジェンダー男性とのいい出会いがあったんですよ」

その男性は、「周りにLGBTQ+当事者がいないけど、その人たちの感覚に興味があって知りたいから、君と歩きたいと思った」と話していた。散歩をしている間に、LGBTQ+のことだけでなく「SOGI(性的指向と性自認)」についても、自分の思いや世の中で起きていることを話すことができた

異なる価値観が“受け入れる心”を育てるから、人とつながっていくことはやめない

「マジョリティといわれる人に、直接『SOGIは全人類に当てはまる話なんですよ』って伝えられる機会をもてたことが、すごくうれしかったんです。ストレートの人はあまり意識したことがないかもしれないけど、『僕は女性が好き』も『僕は男性が好き』も同列の話ですよね。その男性は納得してくれていました。これからもいろんな人と散歩しながら話して、『他人事だと思ってる』という人に情報を伝えていきたいです」

価値観が異なる人と対話をすることは、自分自身を改めるきっかけにもなっている。

「自分と違う価値観をもっている人と話すことで、自分のなかに無意識的にあるバイアスを修正していくことができます。何事も『知らない』って恐怖じゃないですか。でも、新しい考えや情報を得て、知らないことが減ると恐怖心も減少していって、いろんなことを受け入れられるようになると思うんです。そして、寛容になっていくと可能性が広がっていく。そのためにも、さまざまな人と話すって大事な作業だと思います」

たくさんの人が対話を重ね、“受け入れる心”を育んでほしい。そして、いずれはLGBTQ+に関する事柄が“取り上げるまでもないありふれたこと”になってほしい。

「『好きな食べ物は?』と同じくらい、セクシュアリティも自由な答えがあって当たり前になったらいいなって思いますね。『あなたは女性ですか?』と聞くことが愚問なように、全てのジェンダーが自然体なかたちで浸透していくことを願っています」

異なる価値観が“受け入れる心”を育てるから、人とつながっていくことはやめない
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