「男の子が男の子を推す理由」って必要? “プロのヲタク”あくにゃんが考える真のヲタ活

僕が男性アイドルにハマったのは、“少数派の楽しさ”を知っていたから
2011年の東日本大震災の後、延々と流れ続ける報道番組から逃れるように、録画していた韓国の音楽番組を見続けていた。

「もともとお母さんが東方神起を好きで、K-POPはよく流れてたんです。音楽番組も、お姉ちゃんと一緒に見てました。その結果、韓国の男性アイドルにハマって、漠然と“推し”というものをつくりたくなったんです」
中学生の頃から男性アイドルのライブに行くことはあったが、“推し”と呼べる存在はいなかった。そんな中で出会ったK-POPは、異次元のもの。
「その頃のK-POPは、歴代で一番アイメイクが濃かった時代なんですよね。筋肉ムキムキなのにメイクが濃いアンバランスさに、興味が湧いたんです。曲も、同じフレーズを何回も繰り返すものや宇宙っぽいサウンドのものが多くて、新しさを感じましたね」
当時はバンドブームで、バンド好きを公言しているクラスメートはいたが、アイドルにハマっている子は少なかった。
「僕はマイノリティ(少数派)に行くのが超好きなので、周りの子がK-POPを知らないからこそハマったみたいなところがあります。男の子が男の子を応援するのも、ある種マイノリティなんですけど、それも楽しいんですよね」
マイノリティになることに戸惑いや恐怖を感じなかったのは、親をはじめとする周りの大人が、マイノリティであることを肯定してくれたからかもしれない。

「僕の小学校の卒業式は、進学する中学校の制服を着て出席するんですが、僕だけみんなと違う学校に進んだから、制服も違ったんですよね。そんな僕の姿を見て、お父さんが興奮しながら『一人だけ制服違うの、マジかっこいい!』って、言ってたんです(笑)」
小6のときは、周りの男の子が野球やサッカーをする中、一人だけバスケットボールをしていた。自分以外は後輩しかいないチームで試合には勝てなかったが、他校の保護者から「阿久津君は6年生一人で頑張っててえらいね」と言われた。少数派であることは、褒められることだった。
売れてほしいけど、売れてほしくない!あくにゃん流ヲタクライフ
あくにゃんのヲタ活は、まだ売れていないアイドルを応援し、人気が出ていく過程を見守る“育成”がメイン。
「ジャニーズならJr.、韓国アイドルなら新大久保の地下アイドルを推して、育てるのが好きなんです。自分の払ったお金が、彼らに直接影響を及ぼしている感覚に陥れるのが、楽しいんですよね。推しが『1位取った』『ツアー決定した』って、嬉しそうにしてる瞬間や号泣してる場面を見ると、自分も泣きながらお金を払う価値があるなって思っちゃいます」
ただ、推しが大きく成長すると、距離を置いてしまうところがある。

「僕は売れたら徐々に熱が引いていくタイプのヲタクかも。地上波の番組に推しの宣材写真が出たら、世に出ちゃったな……みたいな気持ちになるし、知り合いから『阿久津君が推してる子がテレビに出てたね』とか言われると、自分はもう必要なくなったかなって(笑)」
そうは言いつつ、過去に推していたアイドルたちを一切見なくなるわけではない。SNSのフォローは外さず、ライブのチケットが当たれば見に行き、熱狂する。ステージ上で頑張っている姿を見られると、やっぱり嬉しい。
「売れてほしくて本気でお金も時間もかけるけど、実際売れると『……。』ってなるって、おかしいですよね。なんでそう感じるのか自己分析したことがあるんですけど、僕は割と人生がうまくいくように行動できるタイプだから、うまくいかない経験をしたいのかなって思ったり」
推しがなかなか売れない。推しになかなか認知されない。そういう経験を楽しむのが、あくにゃん流のヲタクの醍醐味なのかもしれない。

「ただ、僕はヲタクとしていき過ぎな方だと思うので、これは多様性のひとつとして受け取ってもらえたら(笑)。きっと理解できない人もいると思うけど、理解できない感覚って面白くないですか? ヲタクもいろんなタイプがいるから、それぞれのやり方でいいと思う」
あくにゃん自身、「推し方は人それぞれ」と思えるようになったのは、つい最近。
「ヲタクを始めた頃は、『現場来ないくせにデカい態度取るな』とか思ってましたよ(苦笑)。でも、SNSが進化して、フォロワー数や再生数が多い子がメディアに取り上げられるようになったことで、現場に行くことだけでなくSNSの投稿にリアクションすることも重要になったんですよね。ファンが無料で貢献できる時代になって、僕の感覚も変わりました。ヲタク同士、尊重し合わなきゃいけないんだなって」

「男の子が男の子を推す理由」が問われない時代になりつつある
男性アイドルの現場(ライブやイベント)に通い始めた頃、周りのヲタクや大人から「男の子が男の子を推す理由」を求められた。
「わざわざ聞いてくる人は多かったですね。アイドル本人も『どういう気持ちで応援してくれてるんだろう?』って困ってるみたいでした。日韓共通で『男の子のファンはパフォーマンスが好きで来てくれてる』と思われがちだけど、少なくとも僕はアイドルの顔も重要視しています!」
特別な存在のような扱いをされたが、マイノリティであることに不安のないあくにゃんは気にしなかった。

「自分の背が高いから後ろの子が見えないかなって気になったり、男だから行きづらいと感じたこともあったりするけど、だからといって『行かない』という選択はしないです。中には『男だから現場に行けない』って子もいるけど、僕という存在を発信することで、そういう子が現場に行く手助けができたらいいなと思うし、『行ってみようと思う』ってコメントをもらうと、発信し続けていてよかったって感じますね」
最近は、SNSなどで“ジャニヲタ系”と公言する男の子を見かけるようになった。その変化は、快く思っている。
「“カープ女子”の現象に近いと感じてます。当初は野球のルールを知らない女の子が球場に集まったことも話題になってたけど、結果的に広島カープの試合は女の子でも行きやすい場所になった。同じように、アイドルに詳しくなくてもラフに『ジャニーズ好き』って言えるようになったのは、いい変化だと思います。アイドルは人気商売だから、人口が多いに越したことはないですしね」
そうはいっても、現場に来ている男性ファンは全体の1割程度。まだハードルが高いと思われているのかもしれない。

「宝塚好きの女性がいるように、男性アイドル好きの男の子がいていいし、そこに違和感を覚える人は少なくなってきていると思います。僕自身も、最近は『男の子を推す理由』を聞かれなくなりました。あとは、アイドルを推す男の子たちが積極的になれるように、後押しするだけかな」
男性アイドルを推すことと同じように、メンズメイクの需要も感じている。ただ、今はまだ“人にバレない”がキーワード。
「YouTubeに上げているメンズメイクの動画も、再生数が伸びるのはナチュラルメイク。『肌は整えたいけど、メイクしているのはバレたくない』が今のニーズですね。まだまだ、男性のメイクが一般的に受け入れられているとは言い難いので、今は“黒髪”、“ナチュラル”を意識して、情報を届けていけたらと思ってます」
人と比べるんじゃなくて“自分の精一杯”を出し切れたかどうか
YouTubeを始めたのは、推しているアイドルを宣伝したかったから。序盤の動画では、ひたすら推しを紹介していた。
「推しから『あくにゃんのYouTubeで知って、ライブに来てくれた子がいたよ』と言われて、効果があるなら続けようかなって今に至ります。最近は、『ヲタクしてて苦しい』って子を救えるようなコンテンツを出すことが多いですね」

「露骨にマウントを取ってくるヲタクもいますからね(苦笑)。でも、比較はしなくていいし、切羽詰まって応援するもんでもない。ただ、卒業、解散、引退で推しが消えた時でも後悔しないために、精一杯応援はするべき。そこで大事なのは、人より多くお金や時間をかけたかじゃなくて、自分ができる精一杯を注ぎ込めたかどうか」
そう語るあくにゃんも、大変な思いをしたことがある。バイト代7万円に対してひと月14万円使ったり、マイナス14度の韓国で2時間半イベント開始を待ったりしたことも。それでもヲタクを続けているのは、その経験が財産になるから。
「いつか自分の経験を世に発信することで、昇華しようと思ってたんですよね。いつだったか中村うさぎさんが『魂削って書く文章じゃないとつまんない』って話してて、自分もそうなりたいなって。世間一般の常識は理解してるけど、それを覆されるほど、“ひとつのことにハマれるって超楽しい”から、その事実を伝えたいんです」
“プロのヲタク”として情報発信する理由は、「ひとつのことに熱中する」という経験は誰しもできるものではない、と実感しているから。
「僕にとってのヲタ活は“代理経験”。僕自身は芸能の道から離れ、会社員という安定を手に入れて、それはそれで幸せなんですよ。ただ、どこかで『有名になりたい』『大きな夢に向かって進みたい!』みたいな気持ちもあって、その思いをアイドルに投影しているんです。野球をやってた父親が、息子にも野球をさせる感覚に近いかな。自分ができなかったことをアイドルに託して、応援するのが楽しいんです。自分の人生と推しの人生をダブルで歩んでいる今が、一番楽しいです」
