Documentary

プロゲーマーは成績向上のために二重施術を決行した

2024.01.29
ちゃま
取材・執筆:上遠野 貴弘
カメラマン:森山 越
ちゃま 1986年生まれ。長崎の高校を卒業後、お笑い芸人になるために上京。小劇場で叩き上げられている中、事務所からYouTubeでのゲーム実況を提案され、その後プロゲーマーに。プレイの視野を広げるため、2017年に埋没二重手術を行った。現在は『自家製麵 二丁目ラーメン』にてラーメン屋開業のために修行中。
いかにしてゲームを制するか。その鍵は視野にあった。結果を残すための飽くなき執念は、自ずと二重施術を決断するに至る。そのときの心境は? そしてその成果は?

サッカーゲームの実況は日本初

ちゃまさんには肩書きがいくつかある。お笑い芸人であり、ラーメン屋であり、そしてプロゲーマーでもある。いずれの話をするときにもその口調は熱く、そして内容は深い。没入するとトコトンまでいかないと済まないタイプだと感じた。

ONEドキュメンタリー取材ちゃま

「今でもM-1には出たいと思ってるんです。だからいい相方がいないかと探しているんですが、なかなか……」

高校を卒業して、東京のNSCに入所。はじめは数多くの芸人の卵たちの中でもまれる日々だった。

「小劇場に出演するんですが、持ち時間は1分です。全然ダメでしたね、ビビっちゃって」

それでもちゃまさんの才能を見込んだ同期とコンビを組むと、6つの評価に分かれているカテゴリーのうち、上から2番目まで駆け上がった。しかしそこからの壁が打ち破れない。

「若手用の劇場で漫才のライブをやるんですが、今振り返るとあまりアピールできていなかったのかな、とも思います」

先行きに不安を感じていた。そんなとき、NSCからとある提案を受けた。これからはYouTubeなどの配信の時代が来る。今からやっておいたらどうかと。

ONEドキュメンタリー取材ちゃま

「ちょうどヒカキンとかが出てきていた頃でした。私たちが配信するのはもちろんお笑いです。ADや作家などがついて本格的に検討していったのですが、毎日お笑いのネタを配信するのはやはり難しいということになって断念したのです」

ではどうする。そこで浮かんだのがゲームの実況配信だった。ちゃまさんはその数年前、ゲーム機を購入したときに同梱されていたサッカーゲームにはまっていた。自分がプレイしている様子を配信したら面白くなるんじゃないか。そうして2013年、サッカーゲームの実況配信をスタートさせた。

「はじめは5回再生とか、全然数字が上がらなかったのですが、続けていくうちに少しずつ再生回数が増えていきました。ほんのちょっと増えただけでも相当に嬉しかったです。そのうちに桁が変わっていき、5000を超えたところからは急カーブで増えていきました」

数字は即信用となる。2年ほど経つと実況配信で収益が出るようになってきた。

ONEドキュメンタリー取材ちゃま

「売れない芸人はそれだけでは食えないのでバイトで繋いでいるのですが、それを辞めてもいいかなというほどの収入になってきました」

それを機会に事務所を辞める。ゲーム実況配信をメインとしたスタイルで行こうと決意したのである。その3年後にちゃまさんはプロゲーマーを宣言する。

好成績を得るためには“広い視野”が必要

ちょうどその少し前にちゃまさんは右目の埋没二重施術を行った。動機は、視認性を確保してゲームの成績を向上させるためだ。

ちゃまさんはもともとは両目とも二重だった。だが、数年前にちょっとしたいざこざで右目を殴られ、そのときから一重になってしまっていた。それが気になりだしたのはやはりゲームがきっかけだった。

ONEドキュメンタリー取材ちゃま

「サッカーゲームをやっていて、モニターの右側での失点が多いことにあるとき気がついたのです。何でだろうと考えて、もしかしたら右目が一重になったことで視野が狭くなっているのではないかと思ったのです」

ちゃまさんは目の前に指を一本立てて、それをゆっくりと左右に移動させていった。するとやはり、右目の方が見えているエリアが少ないことがわかったのである。

「サッカーゲームをするときには、右目と左目で見る場所が違います。役割分担してモニターを見ているのです。そのため、右目を二重に戻したら失点が減るのではないかと考えたのです」

ゲーム画面の視認性確保。美容医療を行う動機としては珍しいケースだ。だが、ちゃまさんの場合は二重にすることで成績向上、収入アップが叶えられるかもしれなかったのである。これもまた切実な望みである。

そこからのちゃまさんの行動は早かった。二重施術についての方法や施術してくれるクリニックを調べ、予約を入れた。無事に二重の右目を取り戻したちゃまさんの実感は、考えていたよりも大きかったようである。

ONEドキュメンタリー取材ちゃま

「ゲーム画面は思っていた通り見えやすくなりました。見えていることで失点が少なくなり、このおかげでプロゲーマーになれたといってもいいくらいに成績が上がりました」

それまでもオンラインランキングでは上位にいたちゃまさんだったが、二重施術をして視野が広がったことにより、公式大会の予選で最後の方まで残れるようになり、もう少し頑張れば世界大会出場、というところまで実力が上がってきた。そのことでスポンサーも付き、いよいよプロゲーマーとしてやっていける確信を持てた。プロゲーマー以前、以降で変化したことはあったのだろうか。

「プロゲーマーになる以前は結構ボケたり面白いことを言ったりして実況していたのですが、それができなくなりました。プロゲーマーという肩書きを持ったことで、僕に対するアンチな存在も出てきます。これはゲーマーだけではないと思いますが。そうすると炎上しやすくなるので、あまりそういうことができなくなりました。本音を言えば、自分のほうが弱者でいたいんですね」

ONEドキュメンタリー取材ちゃま

どの分野でもプロとなったからには、その覚悟やあるいは矜恃といったものが必要になるのだ。

見えにくいことはおのずとストレスにもなる

ゲームのために二重施術を行ったちゃまさん。だが当然、それ以外の部分にも何かしらの影響があったのではないだろうか。

「まずは手術を終えた日の帰りに、見知らぬ女性に『うらやましい』って言われたんです。その一言で美容医療が癖になりそうで心配になりました(笑)。というのは冗談としても、これからはもっと自信を持とうとも思いました」

それが目的ではなかったにせよ、外見が変わることで前向きな気持ちになるのは、意識していないにしても生きることへの力を得たという証でもある。

ONEドキュメンタリー取材ちゃま

「生活のクオリティーは上がったと思います。やはり見えにくいというのは、何かしらのストレスになっているものなのです。これはどんな人にも、どんな仕事にも当てはまると思いますが」

ちゃまさんは現在、ラーメン店でも働いている。自分の店を開業するために準備を進めているのだ。その分野でも二重にすることの効果はあるものなのか。

「あると思います。ラーメンをつくるということは、ある種のパフォーマンスでもあるんです。威勢のいい声や豪快な湯切りなど、ありますよね。その中に目力というものもあるのです。これが案外とても大事なことなんです」

そう言われてみると、頷けるものがある。強い目をして自信を持ってラーメンをつくり、どんぶりを差し出されれば、こちらも居ずまいを正して箸をつけなければならない、ような気もする。だからちゃまさんの二重の目が客を信用させる要素のひとつともなるわけである。

ONEドキュメンタリー取材ちゃま

ラーメンに対する思い入れについても真剣に語ってくれたちゃまさん。その経営方法や味へのこだわりも独自の哲学が貫かれている。ゲーム実況配信というスタイルも含めて、密かにフロンティア精神に溢れたパイオニアなのでは、とも思われる。

お笑い芸人、ゲーム実況配信、そしてラーメン店。この三つの共通点を考えてみる。ちゃまさん本人はこう言う。

「見ている人からリアクションが欲しいんですね。自分の仕事に対して、相手がどういう反応を示してくれるか」

「両方とも成功できれば、最高ですね。言うことないです」

それがちゃまさんの仕事へのモチベーションになっているのだ。また、三つとも「顔が見える仕事」でもある。その意味ではちゃまさんの「見た目」も実は重要なコンテンツなのではないかと思った。二重施術を行ったことは、その面においてもポジティブな材料となったはずだ。

夢の実現までにはまだ先の道のりがある。そのための準備や技術習得に余念のない日々を送るちゃまさん。

ONEドキュメンタリー取材ちゃま
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