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変化に敏感すぎて生きづらい?
最近よく耳にする「HSP」ってどんな人?

2022.02.17 取材・文:有竹亮介(verb) 撮影:小池彩子
HSPとは「Highly Sensitive Person(ハイリー・センシティブ・パーソン)」の略で、非常に感受性が強く、敏感な気質をもった人を指す言葉。アメリカの心理学者であるエレイン・N・アーロン博士が提唱した概念で、病名ではなく、あくまでも気質を表している。コロナ禍による生活の変化でSNSの利用時間が増えたこともあり、HSPという言葉を目にする機会も増えた。そのなかで、自分も当てはまるのではないかと感じている人もいるかもしれない。そこで、HSPの特徴や暮らしやすさにつながるヒントについて、心療内科ベスリクリニック院長の田中遥先生に聞いた。

HSP=些細な変化に気がつく人

「HSPは病気ではないため、明確な診断基準はありません。ただ、『DOES』という4つの特性が掲げられていて、このすべてに当てはまるとHSPの傾向があるといわれます。ちなみに、HSPは先天的なものと考えられています」

D:Depth of Processing(深く処理をする)

・ひとつの情報から10のことを想像し、考える
・深く考えるため、思考に十分な時間を取る

O:Overstimulation(過剰に刺激を受けやすい)

・他の人にはなんでもない音でも強く感じ取る
・周囲に人がいる場所では普段の力を発揮しづらい

E:Emotional response and empathy(全体的に感情の反応が強く、共感力が強い)

・他人の言動や態度に影響されやすい
・ドラマなどを見て感情移入しやすい

S:Sensitivity to Subtleties(些細な刺激を察知する)

・小さな音や光、匂いなどの変化に気づきやすい
・相手の表情や外見などの些細な変化に気づくことができる

HSP=些細な変化に気がつく人

「例えば、天気予報で降水確率60%と見たとき、『60%なら曇りかな、でも雨が降るなら別の靴がいいかも、折りたたみ傘は重いよな、だんだん出かけるのが面倒になってきた』と、ひとつの物事を深く考えすぎてしまう人は『D』に当てはまります。イライラしている人の近くにいると、そのイライラを感じ取って悲しくなってしまうような特性は『E』。刺激に敏感な『O』や細かな変化に気がつく『S』の特性によって、HSPの人は疲れやすいといえます」

田中先生のもとを訪れるHSPの傾向がある人は、以下のようなことを感じる人が多いという。

・周囲の雰囲気が悪いことが気になり、目の前の作業に集中できない
・上司や同僚がイライラしているときに、過剰に気を使ってしまう
・外ではいい顔をしてしまい、帰るとどっと疲れる

「アーロン博士の定義では、HSPは全人口の15~20%に見られる気質とされていますが、文化的な影響もあるようです。繊細な国民性をもつ日本人はHSPが多いといえるかもしれません」

ただし、気質だけでHSPの判断ができるかというと、そうともいえないそう。

「遺伝子レベルで決まる気質に、社会環境のなかで生じる個性がプラスされ、そこから出てくる行動や習慣が作用して、性格は形成されます。そのため、HSPの気質をもっていても、幼少期から習い事で外に出る機会が多かったり、ピアノの発表会などで人前に出て褒められる経験などをしていると、積極的に人と触れ合うようになることがあります。HSPの気質がなくても繊細に育つ人もいるので、気質だけに注目せず、HSPは自己理解や他者理解のためのキーワードとしてとらえましょう」

“HSPだから生きづらい”わけではない

HSPの人は、刺激を過剰に感じたり変化に気づきやすかったりするために疲れやすく、どこか“生きづらさ”を感じてしまうことがあるという。

HSPだから生きづらい”わけではない

「もし、刺激や変化に敏感すぎて生きづらさを感じるようであれば、行動や習慣を変えることをおすすめします。重要なのはHSPであることではなく、“なぜ生きづらさを感じているのか”、という背景の部分にあるからです。そして、その原因を避けるために、行動を変えてほしいのです」

例えば、音や光、匂いといった刺激に強いストレスを感じるようであれば、刺激が少ない環境を選ぶことで負担が軽減する。環境を変えられないようであれば、耳栓をする、メガネの度を落とす、マスクをつけるといった方法で物理的に刺激をカットするという対処方法もあげられる

「他にもかつての人間関係が原因で、周囲の言動が気になるということがあれば、トラウマを克服するカウンセリングを受けたり、過去の出来事をとらえ直すリフレーミングを行ったりすると、過ごしやすくなるかもしれません。この場合は、心療内科の医師やカウンセラーを頼りましょう」

また、周囲の変化を感じ取った際の行動によっても、ストレスの度合いは変わるそう。

「行動は自分で決めていいんだと、意識することも大切です。例えば、上司がイライラしているときに、気を使うか使わないかは自分次第。周囲の人の変化を感じ取ったからといって、自分が何かをしなければいけないわけではありません。気を使わないという選択をしてもいいんです」

「HSP=生きづらい」という思い込みを外すことで、生きやすくなることもある。

HSPだから生きづらい”わけではない

「HSPの気質がプラスに作用し、仕事に活かせる場合があります。HSPの人は、他者が不快な思いをしていることに気づき、居心地のいい空間を整えられるという特性をもっていることがあるのです。日本では古くから良しとされてきたことで、サービス業などで活かせる可能性が高いといえます。繊細だからこそできる仕事や役割が、きっとあるでしょう」

悩んでいる人がいたら声をかけてほしい

HSPという言葉ができたことで、「刺激や変化に敏感な人がいる」という認識は広まりつつある。

「HSPは病気ではないので、周囲の人が過度にケアする必要はないと思います。ただ、身近なところに、環境に順応できずにストレスを感じていそうな人がいたら、『どうしたの?』と声をかけ、話を聞いてほしいですね。それだけでも、その人の心は軽くなると思います」

もし、相手が悩みの原因がわからずに自分自身を責めてしまっているようであれば、「HSPという概念があるよ」と伝えることも、救いにつながるかもしれない。

「自分の行動や考え方のせいではなく、HSPという気質のせいなんだと思うと、肩の荷が下りる場合があります。また、自分と同じ気質をもっている人がいると知るだけでも、生きづらさは消えやすくなるものです。HSPという概念を知る人が増えていくと、誰にとっても生きやすく、やさしい社会になっていくのではないかなと思います」

取材協力

ベスリクリニック
院長 田中 遥
ベスリクリニック
院長 田中 遥
産業医。東京慈恵会医科大学医学部卒。2018年4月よりベスリクリニックに勤務。自律神経の研究を行うとともに、単に病気が治る医療ではなく、どのように生きるかを追求する医療を目指している。
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