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「ジョブ型雇用」が与える影響
“業種”に“人材”を当てはめる雇い方

2022.03.10 取材・文:有竹亮介(verb)
近年、「ジョブ型雇用」という雇用形態を打ち出す会社が出てきている。就職や転職を考える際に聞いたことがある、という人も多いのではないだろうか。2020年1月に日本経済団体連合会(経団連)が「経営労働政策特別委員会報告」で、ジョブ型雇用制度の導入を呼びかけたことがひとつのきっかけとなり、大企業を中心に導入する動きが見えてきているようだ。
ところで、「ジョブ型雇用」とは、どのような雇用形態を指すのだろうか。日本企業の導入事例を見ながら、制度の内容や特徴を考えてみよう。

「メンバーシップ型」「ジョブ型」2つの雇用形態

野菜ジュースなどでおなじみのカゴメグループでは、2013年から社員の等級制度を「年功型」から「職務型」に改訂し、在籍年数に関係なく公平に評価を受けられるようにしている。また、役員や役職者を対象にジョブ型雇用を導入し、各種人事施策を実施。

化粧品会社の資生堂は、2015年から「ジョブグレード制度」を実施し、2021年1月には一部の一般職も制度の対象とした。採用や育成も、同一部門で働き続けることを前提としている。

通信会社のKDDIは、2020年に「KDDI版ジョブ型人事制度」を導入。部門ごとの採用が基本となるが、グループ内での異動も後押しするフレキシブルな制度だ。新卒社員に関しては一律の初任給制度が廃止となり、能力に応じた給与体系が適用される。

「これまで日本では『メンバーシップ型雇用』が主流でしたが、経団連の呼びかけや働き方改革に加え、転職希望者の増加、コロナ禍によるテレワークの拡大も手伝って、『ジョブ型雇用』が注目されているのだと思います」

川部紀子さん
川部紀子さん

そう話すのは、社会保険労務士の川部紀子さん。「メンバーシップ型雇用」「ジョブ型雇用」それぞれの制度内容について、教えてもらった。

・メンバーシップ型雇用
資格やスキルに関係なく採用し、研修などを通じて育てていく雇用スタイル。昇進や昇給がある一方、部署異動や転勤もあり得る。

・ジョブ型雇用
会社が求める業種・職種に合わせて、特別なスキルを持った人を採用する雇用スタイル。部署異動や転勤がないことが多い。

「現時点では、中途採用や社内の配置転換の対象者に対して『ジョブ型雇用』を適用する会社が多い印象です。基本的には、特別なスキルを持った人材を特定のポストに当てはめる雇用法なので、未知数の新卒社員が対象となることは少ないと考えられます」

日本ではまだまだ馴染みの薄い「ジョブ型雇用」だが、会社にとってはメリットの多い雇用スタイルだという。

「即戦力の獲得につながりますし、既にスキルを持っている人を採用するので、社内で育てる必要がないといえます。そのため、導入を考える会社は増えると思いますが、日本全体が完全移行するとは考えにくいです。新卒社員を『メンバーシップ型雇用』で採用しつつ、中途入社の社員やベテラン社員に『ジョブ型雇用』を適用する形が現実的ではないかと思います」

アメリカの「ジョブ型雇用」はかなりシビア

「ジョブ型雇用」は、欧米では一般的な雇用スタイルだという。明確なスキルを持ったプロフェッショナルが個々に力を発揮する「ジョブ型雇用」は、さまざまな部署を巡って成長していく「メンバーシップ型雇用」と比べるとドライな印象だが、欧米ではさらにシビアな実情があるようだ。

「アメリカで働いている友人から聞いた話ですが、内定から最初の3カ月の試用期間が終わる日に、会社から『契約できない』と告げられることもあれば、従業員が『ここでは働けません』と断ることもあるようです。日本では、試用期間といいつつ実質的には本採用となっていることがほとんどですが、アメリカでは業務内容と人材がマッチすることが重視されるため、会社も従業員も互いをシビアに判断しているのでしょう」

会社は「そのポストで活躍してくれる人材か」、従業員は「業務に対して満足な対価を得られるか」といった部分を、試用期間で見ていくのだろう。一方で、「ジョブ型雇用」は退職しやすいという利点もあるそう。

「アメリカでは転職を重ねてキャリアアップしていく働き方が当たり前ですが、『ジョブ型雇用』だからこそといえるかもしれません。『ジョブ型雇用』はあくまで業種・職種での採用なので、退職する際に後任者に引継ぎやすいという利点があるからです」

「子育て・介護」と「仕事」の両立を実現

アメリカと比べると、日本の雇用環境は従業員にやさしい設計になっている。会社から唐突に「明日からは雇えない」と告げられることは、まずないだろう。そのような環境で「ジョブ型雇用」が導入されると、次のようなメリットが考えられる。

「子育てや介護で家を離れられない人にとって、『ジョブ型雇用』はチャンスといえるでしょう。リモートワークでも対応できる業種や職種での採用があれば、正社員でありながら家で働くことが可能になりますし、異動や転勤のリスクも低くなるからです」

夫婦の片方が外に出なければいけない仕事の場合も、もう片方が「ジョブ型雇用」に移行して家で働くことができれば、共働きを続けながら子育てや介護を行いやすくなるだろう。

「日々の生活に支障はないものの、持病のために定期的に投薬や点滴をしなければならず、毎日の出社は難しいという人もいるでしょう。そういう人もリモートワークが可能な業務での採用が決まれば、働きやすくなります。これまで正社員になりにくかった人にとって、可能性が広がる変化といえるのです」

また、会社に勤めながら副業をしている人にも、「ジョブ型雇用」は相性がいいという

「一般的に異動や転勤がないので、会社に縛られない働き方といえます。特定の業務に打ち込むことで時間的にも気持ち的にも余裕が生まれやすくなるため、副業に費やせる時間が増えるなど、柔軟に動きやすくなるでしょう。いずれ転職しようと考えている人にとっても、身動きが取りやすい『ジョブ型雇用』はおすすめといえます」

「ジョブ型雇用」に移行するならスキルは必須

自由度が高く、働きやすいように見える「ジョブ型雇用」だが、移行を考える上での注意点もある。

「『ジョブ型雇用』は異動や転勤がない一方、昇進や昇給もない場合が多いので、ずっと待遇が変わらない可能性があります。その会社でずっと働きたい、いずれは昇進したいと考えている人にとっては、マッチしない雇用スタイルといえるかもしれません。勤めている会社、入社したいと考えている会社の『ジョブ型雇用』では昇進・昇給があるか、事前に確認した方がいいでしょう」

また、「『ジョブ型雇用』の働きやすさばかりにフォーカスしすぎてしまい、重要な部分が見えなくなってしまう人も出てくるでしょう」と、川部さんは話す。

「『ジョブ型雇用』は、スキルありきの雇用です。『この技術があればどこでも働ける』と自信を持って伝えられるくらいのスキルがないと、採用してもらうのは難しいといえます。仮に採用されたとしても、その業務をまっとうすることが困難になるでしょう。20~30代であればスキルを身に付ける時間はたくさんあるので、『ジョブ型雇用』に興味がある人は、どこにいっても活躍できるスキルを身につけることを心がけましょう」

今後、勤めている会社が「ジョブ型雇用」に全面移行する可能性がないとはいえない。そのときのためにも、何かしらのスキルは身に付けておいた方がよさそうだ。まずは、自分の得意分野から見つけてみよう。

取材協力

社会保険労務士
川部 紀子
社会保険労務士
川部 紀子
ファイナンシャルプランナー、社会保険労務士。FP・社労士事務所川部商店代表。日本生命保険相互会社に8年間勤務し、営業の現場で約1000人の相談・プランニングに携わる。2004年、30歳の時に起業。個人レクチャー・講演の受講者は3万人を超えた。最新の著書に、貯蓄や投資の基礎知識を掲載した『得する会社員 損する会社員』がある。
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